ベテラン営業マン参上

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会社を辞めて1カ月が経った。

将来的にまた勤め人になる可能性もあるが今はまったく考えていない。となってくると何か食いぶちを探さないといけない。わたしには何が出来るのだろうか。22年間行なってきた仕事は営業職。新規飛び込みは少なく、ルート営業だ。

飛び込みではないので門前払いみたいなことはさすがにあまりないが、ルートはルートで難しさがある。嫌われたら終わりなのだ。終わりではないがなかなかそれを覆すのは難しい。向こうの機嫌が悪くやつあたり的におこられる場合はまだ何とかなる。向こうにも多少はあいつにあたってしまったなあという思いがあるからだ。とはいえ、相手の機嫌を察することが出来なかったこっちにも充分ひがある。

ちょっと面白いのでこっちを掘り下げてみよう。ルート営業で一番大切な能力のひとつに相手を知ると言うことがあると思う。しかも瞬時にだ。「まいど~」と相手の店舗に入った瞬間に今何が行なわれていて、従業員や社長・パートのかた、お客さんなどが何を思っているのか、全体の空気は重いのか軽いのかを判断する必要がある。

新人の頃はこれがまったく出来なかった。若いので経験が圧倒的に足らないのだ。決められたとおりに挨拶を交わし、上司からならったやりかたでたんたんと商談を進めて行く。決まるわけがないのだ。

経験をつんで10年を超えるころから、この一瞬で空気を読む力がついてきた。「まいど~」と入る。皆の目線がこっちに送られる。その瞬間にわかる。

あかん、今日は無理や。というのがわかるのだ。例えば、先方の社長から「河村君悪いけど25日の1時に来て、B製品の販促してくれへん」とお願いされたとする。「わかりました。喜んでさせていただきます」とわたし。

そして当日25日の1時に店に行く。「まいど~」とはいる。空気が違う。非常事態宣言が出ているかんじ、従業員の目は「河村さんあかん」と言っている。社長の目は「あ~そやった今日こいつくるんやった、忘れてた。」

日常茶飯事である。先方が頼んできたのにその日その時間にいないなんて普通にある。この日はまだいただけましだ。

そんな状況になったとき営業マンはどうすれば良いのか。新人の頃の私なら、そんな空気をまったく読めないので「社長B製品の販促にきました。商品どこにありますか」とやってしまう。新人営業マン河村操のとった行動、まったく間違っていない。約束の日時にきて、約束を果たそうとしている。間違いどころか素晴らしい。社長もちょっと待ってといい、指示をくれる。問題ない。でも、これは最善の策ではない。

5年経った中堅営業マン河村操ならそんなことはしない。空気をさっした河村操は「社長また出直してきます。なんかお忙しそうですし、また日を改めます。」という。社長は「そうか悪いなあこっちからお願いしてたのに、ちょっとトラブッてなあ。」と。「いえいえ大丈夫です。また来ますから」と得意げに帰る河村操。

かなりいい。本人も大満足。おれもだいぶ空気を読めるようになってきたなあ。あの社長の漢字と従業員の感じだとかなりのトラブルだ。それを事前に察知できるようになった俺もかなりスキルたついてきたなあ。今日の俺は行けてたぞ。

かなりいいです。すくなくとも新人河村操とは比べ物にならないくらい良い。これでも90点以上のできだ。でも、ベテラン河村操はこうはしない。彼ならこうする。

入った瞬間ただならぬ空気を読んだ20年目の河村操超ベテラン営業マンは、まいど~と言った瞬間社長のもとに一目散にかけよる。そして開口一番こう言う「社長、すみません。ちょっと他の店舗先に回ってきていいですか。ちょっとトラブルがあってすぐに行かないといけないんです。いや解ってます。社長との約束は1時と言うのは解ってるんです。あとでかならず戻ってきてやりますから、非常に申し訳ないんですが、そちらに行ってよろしいでしょうか。」「ほんとすみません、絶対に戻ってきますから」と社長にほとんどしゃべらさずに立ち去る。

これが今考えられる最高の対応だと思う。ここの社長は口が悪いけどいい人。頭がいい。義理人情に熱い。それを知っている。その前提があればここで社長に口を開かしては駄目なんです。悪いなあと言わさないためにも怒涛の口激で立ち去ることが大事。

ベテラン営業マンも常に時間を守り約束を破らないと言う前提が必要なんです。そういう前提があり、お互いが信頼関係で結ばれているとここは、あ・うん、になるんです。

社長もわかっています。ほかにトラブルがないのもおそらくわかっています。営業マン河村もそこはどうでもいいんです。社長がわかっていようがいまいがいいんです。社長に負い目を感じさせては駄目なんです。

書こうと思ったことと違う内容になりましたが、面白いことを思い出したので書いてみました。

コミュニケーションは絶対に必要。しかし、それを苦手としているひとが意外に多いということを書こうと思っていました。それを思いながら書いていると実は営業のかなりの部分でコミュニケーション能力の高さを求められるなあと書きたくなったのです。

営業職は辛く悲しいことのほうが多かったです。でも何千にという方とコミュニケーションをとるうちに、コミュニケーション能力はついてきました。今はもう駄目ですがピークの時は凄かったです。コンパに行って女の子が何かをするために動いたりきょろきょろした瞬間にその子が何がしたいかわかりました。「はい、どうぞ」とその子が探しているお酢を渡しました。

その子はえーなんでわかったのという顔をしています。そして周りの女の子は「すごーい、河村さんなんでわかったの~」って俺は何を書いてるんや。

ま、悲しいかな今は駄目です。だいぶ頭が硬くなり視野が狭くなったんでしょう。空気の動きだけで人の行動が読めた能力は落ちてきました。なんとか維持するためこれからも色々な人とあっていこうと思っています。

営業には戻りたくないが、コミュニケーション能力の向上について何か、もしかしたら出来るかもしれない。