ギリシャの債務不履行問題、いわゆるデフォルトを受けて、日経平均は6月26日(金)の終値から、500円近くも下げて月曜日の朝を迎えた。
これに引っ張られて個別銘柄は、一時は値がつかないほどに軒並み下げた。今は、少し落ち着いて、日経平均も下げ止まっている。これを受けて、多くの投資家が損失を拡大させたが、この下げで、大儲けをしている人もいる。
それがいわゆる『空売り』を仕掛けている人たちだ。この空売りなのだが、言葉を聞いて知っていはいるものの、いまひとつ、どういう仕組みになっているのかよくわからないとおっしゃるかたが多い。そんな人のために、できるだけ、わかりやすく書いてみることにした。
1 一般的には株があがるのを見越して買う
株を買って企業を応援するとか、優待がいいからとかいう目的で株を購入する人はもちろんいるが、今回は、話が煩雑になるので、それを考えず、単純にこの株は値が上がると思って買っている人を想定していただきたい。
例えばA製薬株式会社という上場企業があって、その株の現在の株価が1株あたり10,000円だったする。株は、1株単位で買えるものとする。
あなたは、この製薬会社の業績を見て、アベノミクスの流れはまだ続き、オリンピックに向けて、日経平均もあがるだろうから、この株は上がると判断したとする。よし、10,000円で1株買おうと、株を買ったとする。
しばらく経って、業績が発表され、それが予想を上回る結果になって、12,000円まで上がった。20%もあがったのだから、まだ上がりそうではあるが、利益を確定したく、12,000円で売却した。手元には10,000円で買った差額の2,000円が残った(税金手数料などは煩雑になるので除外してお考えください)
これが一般的に言われている、安く買って高く売る方法。ほとんどの人はこういうイメージで株に取り組んでいるので、これは理解していただけると思う。
では、空売りを見てみよう。
2 空売りとは先に売る手法である
いっぽう空売りとは、先ほどのケースと真逆の方法をとる。どういうことか。そう、先に売るのである。この製薬会社は、新薬の売れ行きが思わしくないばかりか、副作用の問題で、この薬をそのまま使っても大丈夫なのかという話にまでなっている。この感じだと株価は下がりそうだなと思ったとする。
その時に、現在の価格より、下がるだろうと思った時に、その株を売るのである。それが、空売りだ。
おいおい、ちょっと待ってよお兄さん。株売るって言ってもさあ、俺、A製薬の株持っていないよ、持ってもないのをどうやって売るって言うの?
当然ですよね、そうなりますよね。そうなんです、そこが、この空売りというものを、理解し難いものにしている、ひとつの要因なんです。ないもの売れって、どうするのよって思うでしょ。
では、なければどうすればいいのってことになりますよね。なければ借りればいいんです。レンタカーやレンタルビデオを借りるように、株を借りればいいんです。え、そんなの貸してくれるところあるの?はい、あります。
証券会社さんが貸してくれます。借りるための条件とかはまあ色々あるのですが、ここで、そこに言及すると話がややこしくなるので、ここでは書きません。ですが、そんなに難しくない審査で、あなたも株を証券会社から借りることができるのです。
審査が通って、あなたは株を借りられることになったとします。
早速、A社の株を1株貸してもらいましょう。すみませんA社の株1株、貸して頂けますかと言ったら、貸してくれます。さあ、これであなたはA社の株を借りることができました。あなたはA社の株を1株持っていることになります。
あなたは、今から株が下がると思っている。だったら、とっとと、10,000円で売ってみましょう。A社の株は人気株です。10,000円で売りますよと、市場に出したら、あっという間に売れてしまいました。
おお、よかった。株は売れました、あなたは10,000円を手にすることができました。やったあって感じです。
ところがです。ひとつ忘れてはいませんか。借りたものは返さないといけないということです。そうなんです、あなたは株を証券会社に返さないといけないのです。ところが困ったことに、あなたの手元には株がありません。
ではどうすればいいか。簡単です。市場から買えばいいのです。さいわいなことにA社の株は、すべて同じものです。1株は1株です。あなたが、今から買い戻した株を、証券会社に返却しても、なんの問題もありません。
おいおい、これは俺が貸した株と同じものではないじゃないかなんて言われることはありません。あなたは、市場から買い戻した株を証券会社に返せばいいのです。
じゃあ、そろそろ返さないといけないし、A社の株を買うかなあ。今日の値段はと。
おお、6,000円になってるな。やっぱり薬害の問題に発展するかもという人たちが売ったから株価がさがったんだなと。じゃあ、1株購入しよ。はい、代金は6,000円と。
そうして無事に株を手に入れたら、それを証券会社に返しましょう。今までありがとうございました。はい、これ借りていたA社の株、1株です。あ、長い間借りてたので、これ手数料です。いっしょにお受取りください。
借りているので、レンタル料がいくらか発生しましたが、それはそんなに高くないので、それを度外視してかんがえると、あなたの手元には4,000円が残ったことになります。
借りた株を10,000円で売って、現金を10,000円手に入れました。借りた株は返さないといけないので、市場から買い戻しました。それにかかったお金は6,000円。こうして、差額の4,000円を得ることができた。
この手法が『空売り』と言われるものなのです。この株を貸してもらうというところが、話を複雑にしているのですね。
ですので例えば、暴落前の金曜日の場が終わる15時くらい前に、おそらく、この週末に、ギリシャに動きがあるなあ。でもって、デフォルトの可能性があるなあと予想したとします。じゃあ、株借りて、幅広くの銘柄を1000万くらい売っておくかと、ギリギリで売ったとします。
これが全部売れて、手元には1000万円はいりました(実際に口座に1000万円が振り込まれることはありません。差額のみが増えます)
予想通り週末にギリシャがどうも、デフォルトするのは確実だというニュースが流れて、株価は500円近くさがりました。月曜日朝一番に全部買い戻しました。例えばそれに900万円かかったとしたら、100万円の差額を手にしたということになります。
ところが、もし週末に、ギリシャをヨーロッパは見捨てない。全力で支えるというニュースになったら、逆に日経平均は500円くらい上がっていたかも知れません。そうなると、1100万円くらいで買い戻して、100万円損をするということになります。
リーマン・ショックや東日本大震災の暴落のときに、売っている人は大儲けしたと言うことになるのです。
人が被害にあっているときに、大儲けするなんてとんでもないと空売りは、割りと世間から冷たい目でみられがちですが、業界的に言うと、これに着手することの多いトレーダーは、市場のいっぽうへの動き過ぎや、流動性に関して、なくてはならない存在であるので、頭ごなしに否定するべきものでもありません。
まあ、そのあたりは触れると、思いきり煩雑になるので、今日はこれくらいにしておきます。
このブログを読んで、空売りが、何か、ようやくわかったよと言ってもらえれば、これほど幸せなことはありません。最後までお読みいただきありがとうございました。