絶対にこれだけ売らないといけない時がある

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営業にノルマはつきものだ。

新人河村操にも、中堅河村操にも、ベテラン河村操にも、超ベテラン河村操にもノルマはあった。私が勤めていた会社は毎月月末締め。月の目標が決まっていてそれを達成するためにみなうごいている。

営業マンは一度外に出たら夜まで会社に帰らない。会社によらずに直帰することもある。そうなってくると時間で管理することができない。営業マンがさぼっているかどうかを調査するために、人を雇うなんてことは当然できない。そうかんがえると、ノルマでしばるのがもっともな方法である。

ノルマの追求は厳しい。当然である。営業が売り上げをあげないと会社がつぶれてしまう。必死で売らないといけない。売り上げをあげないと、ノルマを達成しないからと言って命までとられることはない。でも、年に数回は絶対にこれだけの金額を何時までに売らなければいけない日がある。命まではとられないが、まさしく命がけ。会社の命がかかっている。すこしおおげさだが、絶対に売らないといけない日、絶対にまけられない戦いがそこにあるときがある。

今日がその日だとする。仮にその日の17:00までに絶対200万円を売らないといけないとする。そんな時は前の日から戦々恐々。ねられない。どの店舗でどの商品をどの金額を売るかを綿密に計画を立てる。時間はその日1日しかない。回れる店舗数も決まってくる。移動距離を考えるとおのずと回る地域も限られてくる。

どのエリアでどの店から回れば無駄がないかを考える。道の混み具合回るルートを考えるのはあたりまえ。何時にその店につくかもシュミレートする。社長が店にいる時間を考える。決定権が奥さんにあるときは、ふたりがそろっているときにする。

「考えておく」という言葉は絶対にもらえない。今日が最後だからだ。奥さんに決定権があるとき、奥さんがいないとアウト。社長が「家内に聞いてみとくわ」と言えるからだ。逆に社長がいなくてもだめ。決定権が奥さんにあっても、「社長に最終確認をとらないと」と言われたらアウトなのだ。今日が最終日でなければ気にしなくていい。じゃあ社長に聞いといて下さいね、と出直せばいいからだ。(とはいえ、いちど保留になると成約率は半端なくさがる)今日は絶対に保留にできない。いるかいらないかをなるべく早く返事をもらわないといけない。

そうなってくると、2人が一緒にいる時間を知っておきその時間を狙って行く。その時間は1:30食事が終わりほっこりしている時間帯。この店舗A店は1:30に訪問。そこを軸に組むことにする。そこはかなり高い確率で決まる可能性がある。そこに1:30に行けるように逆算してスケジュールを組む。

午前中に2店舗組むことにする。今日は200万円売らないといけない。1店舗目ではずみをつけたい。1店舗目がこけると、達成が難しくなる。ズルズルいく可能性が高い。あせるからである。メンタルもとても重要。あせるとろくなことがない。午前中が忙しくない販売形態の店舗を選ぶ。店主が朝強いか弱いかも重要な要素。あさが強くて、機嫌が良く私のことを好いてくれている店舗を選ぶ。どうしても最終日はこの店から始まる感じになる。絶対に落とせない。

2店舗目は時間がかからない店を選ぶことにする。とれるかとれないかは五分五分だ。でもここは決断がはやい。いるかいらないかだけ。交渉の余地はない。提案書を見せたら無駄話がなく決まる。決まればもちろんいいが、決まらなくても時間はとられない。

朝一番のみせと3番目の1:30ここが決まればかなり、良い感じになる。絶対にはずせない。前の晩に提案書をつくる。いままで店主とおこなったすべての商談をできるだけ思いだす。寝床につきながらシュミレーションを死ぬほどする。ああいったらこういう。こういわれたら、こう切り返すを繰り返す。何度もやってるととれた気になってくる。とれないほうがおかしいと言う感じになってくる。ここまでやる。そこまでやると結構な確率できまる。

そして3番目の店舗も同様なシュミレーションを繰り返す。4番目5番目も同様に。4番目5番目に関してはあまり行なわない。あまり意味がない。1番目3番目がとれるかとれないかで変わってくるからだ。それは逐一微調整を加えシュミレーションする。

そしていよいよ最終日の朝を迎える。

そうとう気合いが入っている。1カ月のうち5日間でもこの気合いで臨んだら、最終日にこんなくろうすることないとは思うが、そんな計算どおりになるものでもない。一番緊張する瞬間1店舗目。ここの商売はシンプル。社長がいるかいないかできまる。「まいど」入った。いた。よっしゃきまった。さい先がいい。「社長、これだけ買ってください。売れるように展開しますから」という。すると社長「わかった。そのかわりきっちり演出せえよ」「ありがとうございます」。ここは社長がいる時点で結果がでる。あとは納品後消化をさせるだけだ。おかげさまでそのパターンができあがっているので、信頼関係ができている。まずは胸をなでおろす。

2番目アウト。「いらん」の一言で終了。あーもこーもない。

そしていよいよ3番目今日のメイン。ここがこけたらやばい。緊張しながら店に入る。

入った瞬間に決まる。店主の位置、奥さんの位置を確認。本日のパートはどの方かをみる。瞬時に判断する。そのかん0.5秒。その瞬間にどこで商談するか決める。店頭なのか、事務所なのか倉庫なのか。

奥さんが見当たらない。おかしい。この時間は店舗にいるはず。すかさず店員に確認「奥さんは」と俺。「倉庫です」と店員。やばい。状況が一変。二人同時に話ししないと決まらない。社長に何の話やと聞かれたらアウト。聞かれたら商談に入らざるをえない。そうなったら決まらない。一緒にいてそのなかでさらに奥さんに話し始めないとこの店では決まらない。

すかさず声をかける「社長、まいどです。奥さん倉庫ですよね。ちょっとあがりますね」と社長にしゃべらすまえに倉庫にあがる。なんとか無事通過。奥さんに会う。奥さんとひとりと商談しても駄目。商談の話しになる前に、奥さんを上手く社長のもとへ誘導する。

何の話しと言われる前に、世間話を切りだす。話しながらなんとか社長のもとに誘導完了。店舗で合流。さっそく提案書をだして商談。「今日はですね、、、」とはじめる。二人の前で商談できればこの店はまず成功。買うかどうかふたりでけん制し合っている。そのときにお願いする。「わかった送っとき。ちゃんと売れるように展開してや」。シュミレーション通り。何度もやったおかげだ。

もういちどおさらいする。店に入った瞬間に判断が遅れ、奥さんが倉庫にいることも確認できず社長になんやと言われたら、実はこの商談は決まっていない。お互いにひとりづつだと強気だからである。なんとしても二人が一緒の時に話しを切りださないといけなかったのだ。普段からパートのかたとコミュニケーションをとっていなかっても終わっていた。「奥さんどこ?」といきなりきけるのは普段からコミュニケーションをとっているから。そこで「はじめまして。ベテラン営業マンの河村操ともうします。いつもお世話になっています。寒いですねえ。どうですか、とやってたら間に合っていない」

ほんまかいな、という描写もある。オーバーだと思われるかも知れない。ほかの人はこんなことしていないかも知れない。でも嘘ではない。最終日はこれくらい緻密にいかないと終わると思っている。このあともこんな展開がこの日は続く。この日は200万円とれたとおもう。でも、もし一瞬のボタンの掛け違いでリズムが狂ったら、0円だって充分ありえる。市場には物があふれている状態。消費だって落ち込んでいる。できるだけ物を仕入れず、在庫を減らしたいと言うのが小売店の本音。もうものはいらないのである。そのなかに売り込んでいかないといけない。

現場はまさに戦場。切るか切られるか、とるかとられるかである。

これくらい緻密に計算したってなにも不思議ではない。ようやくこの月の売り上げの締め。安堵感があふれてくる瞬間だ。こういう戦いがこの日全国の仲間が行なっている。そして今月がおわる。おつかれさまでした。

そして、一晩寝ればまた来月が始まる。0からのスタート。また厳しい戦いがはじまる。22年間のべ264カ月戦い続けてきた。わたしは船を降りたが、まだ今日も戦っている旧友たちがいる。無理をせず頑張ってほしい。