「教え魔」の見事なアプローチ

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「にいちゃん、ええ球打つなあ」50球くらい打った後5番アイアンで180ヤード先の看板をめがけて2、3球打ち始めたときに、聞こえてきた。その日はスイングの調子がよく思い通りの球が打てていた。途中から伸び上がる弾道が看板近くに集まった。失礼。ゴルフの話である。

新人営業マン河村操はゴルフを始めた。社会人になったら皆はじめるんだよ、という先輩のバイアスかかりまくりのありがたい薦めでゴルフを始めた。今日は週に1回の練習日だ。すでにはじめて3年は経過していた。

ふりかえると50代半ばの小柄な男が立っていた。目が合ったのでぺこっと頭を下げる。「何番?4番か?」「5番です」「5番か。ええ球や」「どうもです」もうちょっと打ってみ、見てるから。彼の目がそういってた。仕方なく打った。仕方なくでもないか、みられるのは嫌いではない。今日は調子がいい、看板付近に飛んで行く。「おーええなあ。兄ちゃん大学のゴルフ部出身か」

「いえ、違います。」「プロに習ったんか」「いえ、独学です。」独学だった。レッスンプロのレッスンに申し込んだことがあったが、なんかそのプロがいやで辞めた。全12回先払いだったが、1回目で辞めた。そのあと国内外の文献を読みあさりスイングを研究しそこまできた。その研究は今も続いている。

「我流でそこまで行くんか。すごい。」ぺこりと頭をさげ、さらに続けた。おじさんはまだ後ろに居る気配。もうええんちゃうのんと思いながらも打ち続けた。しばらく見ていたおじさんはまた口を開いた。

「ちょっと外に上がってるかな」やられた。一瞬で気づいた。教え魔だ。あれだけ注意していたのに捕まった。油断した。

見事にやられた。皆さんもゴルフをはじめるなら充分に注意してほしい。練習場には教え魔がいる。かれらは音もなく忍び寄り、勝手に教えだす。何も聞いていないのに、何も頼んでいないのに。これは面倒くさい。ゴルフを始めた当初そうとうこれに私は捕まった。だから注意していた。誰もよるな。俺に声をかけるなよというオーラを出す事で彼らの被害から逃れていたのに。

好事魔多し。このときは調子が良かった。もしかしたらちょっとにやけていたのかも知れない。すきがあったんだ。

振り返った。「もうちょっと外にあげた方がええなあ。ちょっとインサイドに上がってんねん。だからそとから降りてくる。兄ちゃんミスするときは引っかけが多いやろ」あかん。完全にはまった。典型的な教え魔だ。最悪。「そうなんです。解るんですか。」面倒くさいが仕方ない。なんで休日まで接客しなあかんねん。

「だいたいみたらわかる。おっちゃんも長いからなあ」知らんがな。おっさんがゴルフ歴長いかどうかは知らん。けど、仕方がない。今回捕まったのはおれの落ち度だ。捕まってしまったものは仕方ない。こうなったら出来るだけはやく去ってもらうしかない。さいわい方法は熟知している。

「ありがとうございます。どうしても引っかけが直らなかったんです。ここぞというときにミスがでて、スコアを崩してたんです。ありがとうございます。これで大丈夫です。」そういうと満足そう。しかし、必ず次の欠点を指摘してくる。捕まえたカモはそう簡単には逃がさない。「もうちょっと右腕を、、、」「ありがとうございます。1個で充分です。ふたつを意識したら、両方ともできなくなるので、今回はアウトサイドに引くのを意識してやってみます。ありがとうございました。」「そ、そうやな。いっぺんには無理やなほ、ほんだらがんばりや。」すこし不満な表情で打席にもどっていった。まあこれが一番手っ取り早い撃退法だな。

疲れたのでトイレに行った。トイレに貼ってあった。「むやみに人を教えないでください。他人を教える行為を禁止します。 支配人」

結構出没しているのである。用を足しながら、今回彼に捕まったのは何故か考えた。私にもすきがあったのだが、彼のアプローチが良かった。

まず、誉めるのである。誉められて悪い気をする人はあまりいない。なのでまず誉めたのだ。誉めてあげておいて好きを見て攻めてくる。

なるほど、中堅営業マン河村操はここでも学んだ。相手に気持ちいい感じを与えるにはまず誉める事だ。そういえば、俺も教え魔を早急に遠ざけるためにまず誉めて彼を受け入れた。誉められた彼も油断したのか、早急に俺に断られた。

相手を誉めるのはとても大切。

でも、注意が必要。相手を油断させようというように、なにか戦術として使うのは良くない。なんか嫌だ。相手を誉めるときは、本当に誉めよう。何か絶対に凄いところがあるというのを思いながら接すれば自然とそうなる。

これは偽善か。いや違う。コミュニケーションは相手ととるもの。相手を不快にさせてよいなんて事は絶対にない。おおいに誉めれば良いと私は思う。