煮るん?焼くん?

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「煮るん?焼くん?」

左側の肩口から突然聞こえてきた声に驚いた。でも、なんか私この街なんか好きって、元上司の奥さんが言っていたそうだ。

東京から大阪に転勤してきた元上司の奥さん。大阪の人たちのフレンドリーぶりに、最初は驚き、あまりのなれなれしさに最初は引いたという。

なんなの、この街の面倒くささは、東京では考えられない、ゆっくり買い物もできやしないと転勤した当初は東京に戻りたくてしかたなかったと。

ところが、何年か住んだあとに、東京に戻ることになったとき、今度は逆に、この街を離れたくないと泣いたという。これほどあったかい街はないと。

大阪の商店街ではあたりまえの光景であり風景。元上司の奥さんが遭遇した大阪のおばちゃんは、彼女にはエイリアンに覚えたのだろう。勤務を終えて家に帰った上司も、興奮してはなす奥さんの話を聞いて、大阪人にとっては普通な異次元ぶりに驚いたとはなしていた。

「ねえねえ、今日さあ、商店街の魚屋さんで鯛を見てたら、いきなりおばさんが、にるん?やくん?っていってきたのよ。最初は、何を言ってるかわからなくて、当然だけど、わたしにはなしかけてるなんて思わなくて、やばい変な人がきた、かかわらないでおこうと思ってたら、今度はわたしの顔をのぞきこんで、なあ、あんた、この鯛、煮るん?焼くん?っていうのよ。何いってんのかわからないので黙ってたら、この魚あんたは焼くんか?煮るんか?って言われて、ようやくわかったの、何をいってるか。ほんと、怖かったわ」
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と興奮気味で奥さんははなしたそうなのである。河村さん、大阪ってそんな感じなの?って元上司に聞かれた私は、はい、極めて普通だと思います。私もよくはなしかけますから。この間もバス停で、親子が、バスの運賃っていくらかなあとはなしていたのを聞いてた私は、聞かれてもないのに、170円やでって答えましたから。普通ですね、大阪では。ただ、全国的には普通でないのは、把握しております。奥さん驚かれるのは無理はないと思います。

そんな会話をした。

もちろん、奥さんがいくら嫌がっても、大阪のエイリアンからの攻撃は止むはずもなく、八百屋さん、クリーニング屋さん、街にあるいている神出鬼没型のエイリアンからも執拗な攻撃をうけつづけた。

で、3年経ってどうなったか。そう、すっかりそのエイリアンに洗脳された奥さんは、そのエイリアンたちを愛し、もう他の街には行きたくないと言っていたそうなのだ。

もちろん、これは、大阪人である私に対する上司のリップサービスも入っているだろうが、それでも、この空間を嫌いではなくなったというのは本当のようだ。

なんでしょう。私も大阪を離れて、他の街に住んでいる時間のほうが長くなったが、たまに大阪に帰ると、そこは日本の都市というより、アジアの街って感じがする。住んでいた時は気づかなかったが、離れて、たまにもどると、東南アジアの街にある活気が大阪の街にはある気がする。

神戸や京都とはなんとなく違うし、滋賀や奈良の街とも少し違う。

もしあなたが、そんなアジアの街大阪にくることがあったら、是非エイリアンとの遭遇を楽しんでいただきたい。その辺にいる神出鬼没型のエイリアンに「今日は暑いですね」と声をかけて欲しい。相手は飛んで火に入る夏の虫のごとくあなたを捕まえ、洗脳をはじめるだろう。そして、あなたを餌付けしようと、カバン中から飴ちゃんをだし、あなたの手の平の上において握らせるだろう。毒は入っていないので、もらっておけばいいと思う。