コミュニケーションのむずかしさ

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レストランに行った。

私は水、友達は生ビールを頼んだ。
「生中1つね」
私が言った。
「生中1つですね。中と大がございますが」
おかしなことを言う。生中とは生ビールの中サイズの事だ。もしかしたらここではいや世間的には生ビールの事を生中というようになっているのか。色々頭に浮かんだが友達と顔を見合わせた
「中でおねがいします」
と私。すると店員さんは、
「グラスはおいくつお持ちいたしましょう」
グラス?となった私たちは再び顔を見合わせた。
「グラス?って瓶ビールじゃないよ」
と慌てていった。瓶ビールの注文とカンチガイしているのかも。そうだったら大瓶中瓶というオーダーの取り方もあるなと思った。すると店員さんは
「あ、瓶ビールのほうですか、生じゃなくて」
おどろいた。いったいここでは今何が行なわれているのだ。もしやと思い、胸の名札を見た。このあたりはアジアからの留学生が多い。コンビニやスーパー、レストランで大勢バイトをしている。日本語が通じない事が多いので確認した。鈴木さんだった。間違いなく日本人だと思う。もはや通常のオーダーには戻り得ないのを覚悟しながら続けた。
「いやいや、生です。生ビールの中サイズです」
「ですよねえ、生で良かったんですよね」
とようやく店員さんはわれわれが生ビールの中が飲みたいのだなと理解してくれた。
「すみませんでした。生の中がおひとつですね、グラスはいくつお持ちしましょうか」
まだ駄目か、いったいどうすればと思ったが、そこでようやく店員さんははっと我にかえり
「すぐにお持ちします」
と足早にホールをかけて行った。

友達は事態が飲み込めずぼーぜんとしていた。私は何故そのような事が起こったか必死の形相で分析したが答えが出なかった。生中を瓶ビールと思い込んでいたのだろうか。単純に疲れていたのだろうか。結局上手くコミュニケーションがとれなかったことになる。最終的に通じたので問題がないが、日本語の難しさ、省略語の及ぼす弊害もかいま見た気がした。

日本語は出来るだけ正確に使う必要があるなあと思った。客だからとすこし横柄だったのではないかと反省した。もっとしっかり頼む必要があったのかも知れない
「こんにちわ。私はお酒が飲めないので水で結構です。ところがこのかたはビールが大好きなんです。今日はとくに暑かったでしょ。いっしょにテニスをしてたのですが、この一杯のために水を飲んでおられないんです。危ないよと言うんです。ビールは利尿作用があるので水分補給にはならないよと言うんですが聞かないのです。それでいいんだと、それで脱水症状になるなら本望だと仕事終わりとスポーツ終わりの生ビールはやめられないと。だから今日はとびきり冷えた生ビールをお願いします。冬なら瓶もありですが、夏はやっぱり生ですね。食事のオーダーはあとからします。とりいそぎ冷えた生ビールを中サイズでお願いします」
と言えばきっと間違いないだろうと思う。
それでも彼女は
「グラスはいくつお持ちしましょう」
と言うだろうか。