目線でリード

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グランフロントの北館に行くために南館から伸びる連絡通路を北に向かって歩いていた。週末前の金曜日の夕方というのもあってか、普段よりも多めの人が通路を行き来している。営業を終えたビジネスマンが足早に進んでいたり、ウィンドショッピングをするかのように少しゆったりと歩く人が、同じ方向に向かって歩いている。

私はと言うと、サラリーマンほどは急いでいないが、ウィンドショッピングするほど、ゆっくりでいいかというとダメで、その中間くらいのスピードで歩いていた。通路には、片側3車線の感じがあった。車ではないので3歩線とでも言おうか、北に向かう人の列はゆるやかに3つの線を作っていた。私は真ん中の歩線を歩いていた。

一番左側の車線はウィンドショッピング用なのでスロー。一番右側は急ぐ人が、グングン進んでいく感じになっていた。私は真ん中のペースが丁度良く、順調に前に進んでいた。するとまもなく前に私より歩くのが少し遅い30代前半とおぼしきOL風の女性がスーツを着て颯爽と歩いていた。私は彼女に追いつく少し前から、右に車線、いや歩線変更した。指示器はないので出さずに変更した。

その時である。彼女は私の存在を背中に感じたのか、首を右にひねって、私の存在が何かを確認した。私は右に変更したところで、まもなく抜こうと言う時に彼女の視線。目が一瞬あった。

現在は職質されることもなく割り合い爽やかになったとは思っていたのだが、彼女の感覚では、私の存在は職質レベルだったのか、怪訝な顔をした。何ですか、あなた、寄ってこないでよって感じだった。

彼女の怪訝な顔を見たのと、彼女が前にはばかったのもあって、私はスピードを落とし、次の機会を伺うことにした。彼女は気を取り直し再び前を向き颯爽と歩き出した。特にスピードをあげることもなかったので、私はすぐに彼女に追いついた。

すでに一番右の歩線に変更を完了している私は、そのまま真っ直ぐ抜き去ろうとした。すると、彼女はまるで後ろに目がついているかのように、私の方を再びみた。明らかにさっきより怪訝な顔をして、眼力は更に強みを増していた。あんた、ひつこいわね、寄ってこないでよって風だった。

ちがうねん、お嬢さん、あんたが寄ってきてんねん。前に体を向けたまま首だけ右にひねって俺を見るから、その時に、斜め右前に進んでんねん。指示器ださんと、おれの進んでいる右側の車線に入ってきてんねん。あんたが寄ってきてんねん。

そうなのである。彼女は右側に首をひねった瞬間から右斜め前に進む。後ろを向いているので右に進んでいるのに気がつかない。そしてひと通り睨んだあと、首を前に戻す。その戻しているのに伴って左に戻って行くので、正面を向いた時はちゃんと真ん中の歩線にいるのだ。

だから、彼女にとったら、俺が近づいてきているようにしか見えないのだ。

あなたが、寄ってきているんですよというのも何だし、私は大きく右に進路を変更し、対向歩線に大きくはみ出して、大回りして一気に抜き去り北館に入った。

人は目線の方向に進むようになっている。スキーやスノボで経験がある人もいるだろう。人やモノにぶつかりそうになったとき、それを見ているとぶつかってしまう。それより、早急に目線を切った方がいい。そうすると切った方に進んで行く。レーサーも目線で行き先をリードする。

人は目線の方向に進むようになっているのだ。今頃彼女は「今日、めっちゃきしょいおっさんに寄って来られた」って居酒屋で話しているかも知れないが、事故になるよりましだったとする他ないようである。