コミュニケーションエラーか否か。おもてなしな接客

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「あ、すみません」

左手に持ったトレイの上にパンケーキとチョコレートパフェとホットコーヒを2つ乗せ、右手にアナザーパンケーキを持ったスタッフの女性が、体をひねるように右腰をテーブルとテーブルの間に入れ、奥に座っている女性にパンケーキを給仕しようとした瞬間、左脇にはさんでいた伝票が下に落ちた。

それに対してそのスタッフが発したのが冒頭の言葉だ。

プレートにはさまれた伝票が転がっている場所の、一番近くにいた男性が上体を折り曲げ、その伝票を拾ってテーブルの上に置いた。女性の給仕は引き続き行われていた。

「パンケーキのお客様」
「ホットコーヒーのお客様」

彼女のその言葉にお客たちは挙手し、手早く給仕は進んでいった。全ての料理と飲物が皆の前に並んだのを確認した女性は

「以上でおそろいでしょうか」

おそろいって、おかしいやろと思ったが、当たり前のように、給仕の締めで使われるその言葉に一同がうなづいた。そして女性は

「ごゆっくりお召し上がりください」

と声をかけテーブルから去った。ちょっと待て、ちょっと待て、おねえさん。ごゆっくりってなんですのと、心のなかでひとり突っ込んだ。ひとつ足らん。間違いなく言葉がひとつ足らん。

またまた、自分に関係ない出来事に腹を立ててしまった。足らんよな、いや、もしかしたら、足りてるのか。最近文句ばっかりゆーてんな、ただのクレーマーになりつつあるのか。もう一回考えてみ、ひとつ言葉が足らんと思っているのは俺だけかも。それが証拠に、みな何事もなかったようにパンケーキ食べてるやんけ。

おれがおかしいのか。まちがっては相手に失礼だと思って、もういちど彼らのやりとりを頭のなかでトレースした。やっぱり足りない。

そしたらお姉さんなにかい。あなたが街を歩いていて、ハンカチを落としたとして、後ろの人が拾ってくれたとして、渡してくれた時に、お礼言わないの?言うよね。

そうなんです。冒頭の「あっ、すみません」は伝票を落としたことに対してあやまったのです。タイミング的にそうです。だとしたら、その男性が伝票を拾ってくれたことに対して、おれいを言わないといけないのです。

もし、私がホール主任で、ホール全体のおもてなしに目を光らせている鬼教官なら、どやしつけてますね。なんだあれは。伝票を落とすのはまあしかたない。それに対して、すぐにすみませんと言ったのもいい。ところが、あんた、拾ってくれた事に対して何も言ってないよ、わかってんの。すぐに、行ってお礼を言いなさい、とやる。

まあ、拾った男性は気にもしてないかも知れませんが、その一言で店の評価は格段にあがります。その場にいる人が、おお、この店すげえ、また来ようって思うかも知れないし、私がもしそれをみたら、また行くに違いありません。

あかん、もう辞めよう。そんな重箱の隅をつつくような生き方してたらロクなことない。と毎回思っているけど、またやっちまう。性なのかもしれない。近所の桜でもみて癒やすことにします。みなさまにもおすそわけ、滋賀県草津市の桜です