英語は人類を救う

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年代がわかってしまうようなタイトルになってしまったが文字通り突然英会話が始まった。

みどりの窓口で切符を買おうと並んでいた。4名ほどが列を作っていて私は5番目。目の前の青年が窓口の係員に呼ばれ進んでいった。いよいよ次は俺の番だ。

「スミマセン。クサツカラナゴヤオネガイシマス。シンカンセンハイリマセン」流暢な日本語だったが少しイントネーションがおかしい。まあ流暢な日本語と表現している時点でその日本語は流暢とは程遠く、たどたどしい話し方から日本人ではないようだった。ファンキーなドレッドヘアで首にヘッドホンをかけていた。窓口でそれだけ伝えたらチケット売ってくれるから大丈夫だよという友達のアドバイスの通り駅員に伝えたようだった。

普通なら問題なかった。何事もなくチケットを出してくれたのだろう。ところがそうはならなかった。まったく予想だにしてなかった言葉が駅員から漏れた

「柘植回りで行きますか?それとも米原回りで行きますか」

草津から名古屋に在来線で行くには2つのルートがあるらしい。柘植という駅を通っていくルートと米原を通って行くルート。柘植回りで行くやつなんかおるんか、普通に米原ルートとだけ紹介したったらええやんか、そんなに時間も変わらんだろうしと思ったが、ルール上そういうわけにもいかないのだろう。一応ルートが2つあるということを伝えないといけないのか(写真はイメージです)

理解できなかったブラジル人は、自分の言葉が通じなかったと思い、もう一度

「クサツカラナゴヤオネガイシマス」

と言った。すると駅員は「はい、名古屋ですね。名古屋に行くには2つのルートがあるのです。柘植経由と米原経由です、どちらにしますか」なんか違うと思ったブラジル人の彼は「スミマセン、ニホンゴワカリマセン」と慌てて言った。やはりそうか、彼は切符を買うために「スミマセン。クサツカラナゴヤオネガイシマス。シンカンセンハイリマセン」という言葉だけを丸暗記してきたのだ。それを駅員に投げた。ところが真面目な駅員に当たったため予想外の答えが帰ってきてトラブルに巻き込まれた。

あかんどうしようかと思った彼は手に持っていたスマホをスクロールして画面を見つけ出し、それを駅員に見せた。提示されたスマホ画面を首を斜めに傾けながら見た駅員は最後通告にも思える言葉を冷たく言い放った「英語わかりません」そんなに冷たくしなくてもと思ったのだが、スマホの画面が英語だったのだろう、見た瞬間言い放った。

一瞬ふたりは見つめ合って万事休すと思った彼は”I wanna go to Nagoya”と言った、駅員は英語がわからないと言っているにも関わらずだ。もちろん駅員の答えはノー「No Engish」と言って手のひらを彼に向けて英語をそれ以上話すことを阻止した。フーと大きくため息をついたブラジル人を見て、これで詰んだなと思った俺は、28連勝中の藤井プロ棋士を思いだしながら助け舟を出すことに決めた。

“Hey, need help?”

正しい英語ならこんな場合、”Excuse me, sir? Would you need help?” とか言うのだが、お兄ちゃんはファンキーだし、そのほうがいいかなと思って、くだけた言い方をしたのだ。need helpの前には Do youがつくが、音が欠落して聞こえないことも多いので、省いた。

突然背中側から聞こえてきた英語に驚きブラジル人のお兄ちゃんは両手をオーバーに顔の前に持ってきて”Yeah, you speak English?”と言ってきたのでクールに”yes”と言った。駅員にはうなづきながらアイコンタクトをして「名古屋に行くのにルートが二通りあるということですね、米原回りと柘植回り」と言ったら、そうですと駅員がうなづいたので俺もうなづいて、懇願するような目で俺を見ている彼に伝えた。

“You wanna go to Nagoya from Kusatsu, all right?

助動詞のDoから始まらずYouという代名詞から始まる疑問文、そうですこれは付加疑問文。本来なら, don’t you?となるのだが、こういうふうに使う人は多い。俺もこういう風によく使ってたので口をついてでた。伝わる喜びに興奮したのか彼は”yes, yes” と答えた。彼の目的を確認した俺は、駅員が売ってくれない原因を紐解くように伝えた。

“There are 2 ways to go to Nagoya station from Kusatsu, I mean two routes.”

2つの方法があるんだよ名古屋に行くのに、二通りのルートが、って言った。2つ方法があるといったら、電車以外の方法と捉えられるかも知れないし、あわてて2つのルートがあると付け加えた。それでもそれって新幹線ルートの事と思われる可能性もあるが、もっと気の利いた言い回しを思いつかなかったので、どんどん説明を付け加えていった。案の定怪訝な表情をしているのでさらに

via Maibara and via Tuge

とつけ加えたが、通じているかどうかわからないので駅員さんに

「路線図ありますか?」

と聞いたら、時刻表の路線図を見せてくれた。そして指でこっちとこっちと謎ってくれた。一緒に見ていた彼は俺にWhich is earier?と聞くので、俺は駅員に「米原と柘植どっちが早いですかね」と聞くと、ええっとと時刻表を調べだしたので、おそらく米原だと判断し「新快速あるから米原経由のほうがらくですよね」と聞いた「まあ、ええ」と言ってたので、俺は米原経由に決めて

“via Maibara is good for you, take a Express train”

と伝えた。すると彼はそれにすると言うので、駅員に米原経由でお願いしますと言った。はいと答えて駅員は発券を始めた。どうせ次は俺だから、窓口のところにそのまま滞在してどっからきたの?とか何しにきたの?とか聞いてた。彼がブラジル人だとわかったのは聞いたからだ。

発券が終わり、お金を払った彼は俺に軽く会釈をして「アリガトウゴザイマシタ」と言って走っていった。俺はシーユーと言って、俺の番になったので再び駅員に向った。彼は何事もなかったように「どうぞ」と言って業務を始めた。もしかしたら駅員は最新式のAIロポットだったかも知れない。

文字通りのブロークン・イングリッシュ。ちょっとした勇気と人を助けたいいう本能を開放してあげれば英語は話せるようになるのではないかなあと思ったできごとだった。言語はきっと人類を救う。