サーフィンをスポーツとするのはどうなの?って声もある。サーフィンってのはスポーツを超えたカルチャーとか哲学っぽい側面もあるから、そういう声があがるのだが、まあ今回はオリンピック種目にも選出されたことだし、スポーツとして話をすすめる。
このスポーツは自然を相手にするものだから、時に、これでもかって非情な振る舞いをしてくる。
サーフィンってスポーツは、沖合で吹く風が起こした風波が、同じ周波を持つものどうしが集まって、うねりというものになったものが、長い時間をかけて、時には数日間もかけて海洋を旅してきたものに、サーフボードという道具をつかって乗るものだ
うねりは円運動をしながら岸に近づいてくる。
うねりは水でできているので、その水の塊が沖合から岸に寄せてくるように思えるが、実際は水は動いていない。水の分子の運動が次から次へと伝わっているだけで、沖合の水が動いてきたのではなく、岸近くにあった水が運動エネルギーを得て盛り上がったりするのだ。
その運動が伝わった岸に近い水が回転運動をもらって回転しながら盛り上がる。その回転の直径の半分の水深になったところで、円が楕円になり、波が崩れる。
サーフィンはその波が崩れる瞬間に波に乗るスポーツなのだ。
長い間かけて届いた自然が与えてくれたエネルギーがいよいよ岸にぶつかって崩れてその生命を終えるという最後の瞬間を利用して、楽しませてもらう感じだ。
波が岸に届いて、崩れるところであればどこでもいいかというとそうではない。
右、もしくは左から順番にくずれていってもらわないと困るのだ。届いた波が、いっせいに、ドッカーンと崩れたら、あっというまに、真っ白い波になってしまい、乗るところがなくなる。
崩れてしまったら終わりであり、崩れる直前の波に乗るのがサーフィンなので、端っこから順番に徐々に崩れてもらうのがいいのだ。そうなると、崩れる直前に右にいけば、そこはまた崩れる直前だし、崩れそうになったら、右に進んだら、そこはまた崩れる直前。
このように順番に崩れていく波が最高に都合がいいのだ。
それにはさまざまな条件を必要とする。
砂で作られた海底の形が、うまく順番に崩してくれるような形になっていないといけない。砂は動きやすい。ある程度いい感じでできていた海底が、大きな波や強い潮の流れで崩れたりする。昨日まで良かった場所が、1日で、波がきれいにくずれない場所になっていたりする。
波の向きも大切だ。その地形は北東からのうねりに対して、いい感じであるが、東うねりは一気に崩れてしまうってこともある。潮の満ち引きも関係する。
潮がすこし引いているときにはいい感じなのに、満潮になるにつれ、水深が深くなり、いままでキレイに割れていたのに、割れなくなったりする。
風の影響もある。
風がないとうねりができないので、サーフィンにならないが、うねりができてしまうと、今度は、風が邪魔になる。きれいなうねりを、沖からの強い風がつぶすようになり、サーフィンに適した波でなくなる。
状況は一瞬でかわる。
最近はコンピューターや気象衛星のできがよくなり、それをみて波予想をする技術や技能もあがり、以前に比べて、格段に波を予測する精度はあがった。
以前は天気図を見て自ら波を予想して、海に行っていた。大阪からだと近いところでも2時間はかかる。2時間かけて、行って、波がないなんてことはざらだ。
精度があがった今は、以前より波をはずすことはなくなったが、朝海について、いいうねりが入ってきて、おお、いい感じだと、ウエットスーツに着替え、サーフボードを持って海に向かって走り出した瞬間に、風が吹きはじめて、きれいなうねりは、ぐちゃぐちゃに崩れ、全然なみのりできないなんてことがある。
こんなスポーツは他にあまり例を見ない。
それをやるためにわざわざ行っているのに、それができずに帰ってくるってことはほとんどない。ゴルフで雪が降ってだめになるとか、スキー場が雪不足でだめになるとかはあるが、それは、ほとんど予測可能だ。
雪が積もっているゴルフ場にはいかないだろうし、雪不足のスキー場にはいかない。
サーフィンは急になくなるのだ。競技場にいってそのフィールドがないってことがあるのだ。ゴルフにいったけど、ゴルフコースがなかったなんてことはないだろう。
釣りに行って、魚が釣れなかったってことはあるが、釣り自体はやっているからね。サーフィンはできないってことがあるのだ。
それって、すごいよね。わざわざ3時間もかけて海に行っているのに、なにもできず帰ってくる。普通は考えられないが、サーファーはそれを受け入れる。
もちろん、腹もたつし、なんでやねんと思うが、まあ仕方ないよな、自然相手だからってなる。
だから、サーフィンを禅に近いものといったり、哲学的な感じでとらえている人がいたりするのかも知れない。
以前、ともだちの経営コンサルタントが俺に、
「みさおさんが、待たされても怒らなかったり、だめなものは、どうしようもないよねと受け入れるのは、サーファーだからじゃないか。いや、きっとそうだよまちがいない」
いったことがある。そのときは、そんなことはないよ、と思ったが、もしかしたら、そうかもしれない。
サーファーは、誰より、自分ではどうしようもないものをわかっていて、それをコントロールするのは、絶対に無理ってわかっているのかもしれない。
そういわれてみれば、なにか問題が起こった時に、どれが自分にできることで、自分にはできないことはどれかって区別をつける癖がある。自分にできることを精一杯やることでしか、改善しないから、やってもどうしようもないことを考えてもしかたない。
こういわれると、普通そうだろうって思うかも知れないが、そんなことはない。
勤めている会社がもしかしたら潰れるかも知れないと噂がたったときに、どうするどうするって、会社が潰れるかどうかの話ばっかりみなしていたが、そんなことよりやれることってある。がんばって業績をあげることもそうだし、万が一のために、転職支援サービスに登録しておくことかもしれない。
「しゃあないなあ、どうしようもないやん、俺らがなんかできるものではないし」
というのが基準にあるのは、俺がサーファーだからかも知れない。
昔は暑かったら、服を脱ぐとか、水を浴びるとか、こちらがなんとかするしかなかった。相手は太陽だからね。でも、化学が発達して、人間は自分ではなく、周りを変える、エアコンを発明した。これって、今まで変えられなかった環境を変えるってことなんだよね。だからもしかしたら、周りを変えれるって思ってしまったのかもしれない。
そういえば、最近、ものすごく性能のいい波乗り専用の波を起こす機械が発明されて、プールでサーフィンを楽しんでいる人がいる。ものすごく、いい波で、いつでも練習できるので最高なのだが、それが、もしかしたら、サーファーになんらかの影響をおよぼすかもしれない。
その波にのるとしても、つねに自然へのリスペクトは怠ってはきっといけない。神に対する冒涜になるかも知れないからね。
それにしても4時間かけて行った場所で、なにもすることができず、また4時間かけて家に帰らせるサーフィンはあまりにも非情だ。
Oh, my God.
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