王将で店長に「焼き加減は、これくらいでよろしいでしょうか」と聞かれる僕はVIPか?

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「焼き加減は、これくらいでよろしいでしょうか」
店長はカウンター越しにそうやって僕の前に餃子を差し出した。僕は、その限りなく黒に近いこげ茶色のやけあとで表面を覆い尽くされた餃子に大いに満足し、うんとうなずいた。そのやり取りは、僕が席に着いた2分後にやってきて僕の右隣に座り、週末の夜を餃子と生ビールで楽しむサラリーマン風の男の箸を止めた

僕より2分前に入ってきて、3分遅れで餃子と生ビールを注文したにも関わらず、その男の餃子は僕の頼んだ餃子より1分前に届いた。飲食店のマナーや接客に人一倍うるさい僕。本来なら、先に頼んだ僕の餃子が届いていないのに、その男に餃子が先に届いたことに文句のひとつも出る場面なのだが、ここではまったくおこるどころか、喜ばしい。

それには理由がある。餃子の王将が誇る裏メニュー的なものだ。知っている人は知っているが知らない人は知らないそのオーダーとは、餃子のよく焼きだ。ステーキーの焼き具合と同じ。ウェルダンでというように、よく焼きでと言えば、普通よりよく焼いてくれるのだ。彼の餃子が先にでてきたのはそのせいだ。彼の餃子より、僕の餃子のほうが1分間長く焼かれているのだ。

すでに2個目を口に運び、現在は4個しか皿の上にのこっていない、餃子の表面の焼き色は茶色だ。こげ茶でさえない。それは普通の焼き方で、オーダーをしなければ、それででてくる。彼は、このオーダーのしかたを知らないのか、もしくは普通の焼き方が好きなのかどちらかなのだが、彼はオーダーのしかたを知らない。

なぜなら、彼は僕の餃子が出た瞬間に動きが止まって、固まってしまったからだ。彼はあとから入ってきたので、僕がオーダーしている様子は知らない。だから、よく焼きと頼んだのを知らないのだ。だから、おどろきはいっそだったのだろう。

彼が固まった理由は色々考えられが、僕の読みはこうだ。

<なんだ?今店長は、この横の男に餃子をだすとき、焼き具合はこれでよろしいですかと聞いたぞ。俺に出すときは、そんな具合をたずねる言葉はなかったぞ。なんだ、この男は上得意なのか、それとも地元の名士なのか。いや名士の線はないなあ、名士はおそらく王将にはこないだろうし、こんなよれよれのジャージはきていない。だとしたら常連か?それにしてもあからさまだなあ。まあいいや、俺もいずれは焼き具合をきかれるぐらいまでなってやる>

表情がそのように言っていると俺は思った。3秒ほど固まった彼は、3個目の餃子に箸をつけ、口に運んでほおばりながら、ビールを一気に飲み干し、おかわりの2杯目を頼んだ。

僕はずっと彼を視線の片隅でとらえていたが、あの固まる瞬間の動きは忘れられない。おいおい、なんだあ、この店は、そしてこの横に座っている男は、超VIPじゃねえかという心の声が聞こえてきたようだった。

何とも言えない優越感にひたりながら、レジで会計をすませて今年度の王将クラブカード獲得の達成に向けてスタンプカードをさしだした。11月末の期限までに何とか達成できそうだ。会員になれば、晴れて28年度も継続となる。これで3年連続、むらんの記録にはとどかないが。
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