わたしはエレベーターガールではない

シェアする

なかなかこない。横に動いているのではないかと噂されるエレベーターの前で、何かのサークルに向かうのか、30代後半から40代半ばの女性7人が、全然こないエレベーターをまったく気にする様子もなく、楽しそうに話ている。その周辺では、あまりにこないエレベーターにイライラしながら、サラリーマンが2人待っている。

ようやく上行きのエレベーターがきた。ドアが開いて降りる人を待って、先に陣取っていた女性陣7名が乗った。その間も話を辞めない。たのしそうにかたまって乗り込んでいく。7名がはなしながらのっていくので、結構時間がかかる。降りる人も多かったので、私とあとのサラリーマンがのるには、ドアの開放時間が足りない。

彼女たちの最後のひとりが、のったあとに、私がのりこみ、そのあとにサラリーマンがのるという順だった。案の定私がのった瞬間にドアが閉まりそうになった。私は慌てて、エレベーターガールの位置に陣取り、開くドアを押した。締まる寸前のところでドアが再び開き、サラリーマンは無事にのることができ、ボタンを押した私に会釈した。

はなしながら、奥にグイグイ乗りこんでいった彼女たちは、そんな様子を知る由もない。そのあとも、話に夢中で自分たちが行きたい階のボタンを押していないことに気づいた誰かが「あれ、何階やったけ?いややわ、わたしらボタン押してない。6階押して」と仲間に頼んだ。

さいわいなことにこのエレベーターは奥の両サイドにもボタンがある。仲間のひとりが「ほんまや、忘れてた」と笑いながらボタンを押した。前のエレベーターガールの位置にいるわたしと、逆サイドのボタンの前にいるサラリーマンは、ほっと胸をなでおろした。うしろから、6階おねがいしますとかいわれたら、はたして、我々は怒りを抑えることなく押せただろうかと。

我々がのってくるのに対して何のフォローもしてないお前らが、自分らの行きたい階を告げれば、それを我々がおすのか。まさか、無視するわけにもいかないから、当然押すのだが、もし押さなかったら、なに、あのひとたち感じ悪いわねときっというのだろう、おまえらは、俺らを締め出そうとしたことに気づいてさえいないのだからな。

と怒りに思いを巡らせてたら、やがて5階についた。サラリーマン2人が降りていった。止まったのを感じたやつらの誰かが、ここ何階っと言った。5階、と誰かが答えた。そしてドアはしまり、奴らと、エレベーターガールの俺だけになった。

そしてまもなく6階についた。

彼女たちは、いや奴らは、後ろに陣取っている。またはなしながら出て行くので時間がかかる。わたしが開くボタンを押していなければ絶対に全員がでられない。はさまってしまえと、ボタンを押さない選択肢もあったが、本能が開くボタンを押していた。そして、彼女たちが降りるのを待った。

こうなってくると、最後の興味は1点だけ。わたしが開くボタンを押しているのを感じた誰かが、会釈のひとつでもしてくれるかどうか。まあ、無理だろうなと思う反面、これだけいたら、ひとりくらいはという期待のまま、彼女たちを、いや奴らを見送った。

結果は予想を上回りというか、予想通りというか、こちらに一瞥をあたえることもなく、7名の女性陣は、それぞれがそれぞれとはなしながら6階のフロアーに消えていった。そのまま、見送ることもできたが、このままでは、次の仕事に影響するという思いと、もしかしたら、彼女たちのためにもならないと思った私は、ドアが閉まり始めたタイミングで

「あっ!」

と大きめの声で言った。後ろの3名が驚いて振り返った。エレベーターが締まる寸前の私を確認した彼女たちに対して、わたしは微笑んで、うなづいた。彼女たちはキョトンとしていた。それが、わたしがその時にできた、最大で最善の抵抗だった。なぜ、私が微笑んでたかについて、すこしでも、思いを巡らせてくれたらと思うけど、まあムリだろうな。

申し訳ないが、あなたたちの顔は全部覚えた。もしあなたが、なにかの縁で、保険を売りにきて「お客様のためなんです」って言ってすすめても、絶対はいらないからね。

言うまでもないが、女性が全員こうだとか、話をしたらいけないとか、ボタンを押している人に配慮しないといけないとか言っているわけではない。私は、単純に自分の主観で判断で基準で、怒っているだけだ。もしかしたら、おれが悪いかも知れないからね。