京都駅間近の新快速、まもなく停まるのだが。

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京都駅間近の新快速

夕方の姫路行き新快速は混んでいる。

一番空いている車両に乗ることにしているがその車両でさえ席は全部埋まり通路に人が立っている。田舎の快速電車は横に長い座席ではなく進行方向に向って二人がけの席が用意されている。座席は窓際に張り付いていて中央が通路になっている。私はそこに立っていた。

山科を過ぎてトンネルを越えるともうすぐ京都ですよのアナウンスがはいる。徐々にスピードを落とす。京都駅では降りる人が多いので空く席はないか目を見開いて見回す。アナウンスが終わってまもなく、進行方向右側の座席の窓側に座っていたお客さんが動き出す。

読んでいた文庫本をカバンに入れ、カバンから財布を出しICOCAを出す。通路側の人もその動きを察し、足元に置いていたビジネスバックを膝の上に置く。膝をできるだけ後方に下げ、前の座席との間にスペースを多くとろうと座り直し背中を強く席におしつける。奥の人が出やすいように配慮する。

さあこれで準備完了だ、私もまもなく空く席に座るために床においたビジネスバッグをとりあげ、奥の人が出やすいように立ち位置を変える。おそらく通路側の人は、空いた窓側に席を移動するだろう。窓際の人が立つ、手前の人が奥に詰める、空いた通路側に私が座る。

京都駅到着後の人員移動の脚本は見事に完成した。

ところがだ、奥の席の人はもうほとんど駅についたのに動かない。それどころか財布をしまって、一度は膝の上に抱えたリュックを再び足元に置いた。

フェイクだった。

たまにいるのだ、降りもしないのに、降りる風の雰囲気を出す人が。もちろん、その人は悪くない。公序良俗に違反しなければ車内でどんな動きをしようと勝手だ。結局その人は、次の高槻で降りた。高槻で降りるのなら、京都を過ぎてから降りる用意をして欲しかった。

車内には電車マナーのポスターがあちこちに貼ってある。スマホを見すぎて、座りたいと思っている人を見逃してませんかとか、ヘッドホンから音漏れしていませんかとか、車内で騒ぎすぎてませんかとか。

ぜひ、その中に、あなたは降りもしない駅の手前で降りる雰囲気を出していませんか、それって迷惑ですよって加えて欲しい。窓際の人が降りそうだったのを察して、カバンを膝の上においた通路側の紳士は再び静かに足元にカバンを下ろした。

結局その人は高槻で降りた。予想通り、通路側の紳士が奥へ詰め、私が手前に座った。膝の上にパソコンをおき、この事件をわすれないようにとキーボードを叩いている。久しぶりの新快速シリーズ、お楽しみいただけただろうか。

用意は必ずしも早いほうがいいとは限らないものである。

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