どれが本物のわたし?

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新人営業マン1年目の河村操は元気いっぱいだった。明るくさわやかな営業マンだった。どのクライアントさんも一律に元気で明るい子だと評価してくれた。もちろん元気で明るいという評価がすべて良い評価とは言えない。

いつも元気で明るいのがうっとうしい、うるさいと思っているクライアントさんも当然いる。とはいっても元気で明るいのはおおむね良い評価であった。

20年後の超ベテラン営業マン河村操の評価。クライアントさんの評価はまちまち。クライアントさんによって全然違った評価。ものすごくまじめで、きっちりと企画書をつくり論理的に提案を組み立ててプレゼンしてくる。とても優秀な営業マン。

ものすごい適当。「まいど~」と店に入ってきて、適当に話して帰っていく。商談も提案もなくふらふら~と出て行く。ええ加減な営業マン。せやけどしょっちゅう来てるなあ。という評価。

全然話さない。必要なことしか言わない。こっちが聞いた事しか答えない。ただ、欲しい情報は確実に提供して帰る。彼ほど寡黙な営業マンはあまり見ない。

滅茶苦茶うるさい。ずーっとしゃべっている。こっちがええ加減にせえと言わないとしゃべりをやめない。いらんと言ってるのに提案がとまらない。

というふうに、ベテラン営業マン河村操の評価はてんでバラバラ。なぜなのか。店によって人格を完全に使い分けているからである。時を追うごとに徐々に変化していった。これが良いかどうかはわからない。とりようによっては嘘をついている。詐欺師にちかいとも言える。でもベテランはこっちのほうが良いと判断し路線を徐々に、無意識にかえていったのだ。

元気一杯もいい、さわやかもいい。でもそれだけでは全然入りこめない。元気なのが嫌いなクライアントさんもいる。理詰めでこられるとうっとうしいと思うクライアントさんもいる。提案されたらとりたくなく、提案されなかったら急に欲しくなるというクライアントさんもいる。

お願いしないと買ってくれないお客さんもいれば、お願いした瞬間に買う気をなくすお客さんもいる。ベテラン河村操はそれを肌でかんじ、それぞれにある程度合わせたほうが、成約率があがるのを知り徐々にいくつもの性格を演じるようになった。

このスタイルをどう評価するかは皆さんの判断におまかせするとして、すくなくとも私はこのほうが良いと思ってやってきた。

わたしのことをよく知る方は少し違和感を覚えるかもしれない。お前そんなに器用かと。おっしゃるとおりである。普段の私は完全に無防備。自分が完全にでてしまっている。知り合いの前ではなかよくなればなるほど、いわゆる演技をしなくなる。

会社員時代は1日10人前後のクライアントさんと話す。10人10色なので10通りのキャラを演じていることになる。さすがにへとへとになる。仕事を終えて仲間や家族に会う時には、演じる力は残っていない。素がそのままでる。

演じまくってそれぞれで違う性格をよそおう自分を滅茶苦茶嫌になったことがある。詐欺師、偽善者、うそつきと自己嫌悪になり自分を責めまくったこともある。おまえは性格悪いよと。

それでも、スタイルが変わることがなかった。静かに商品をならべ寡黙に仕事をコツコツとこなしているクライアントさんの店を訪問するさいに、「まいど~三河屋で~す。今日も売りまくってますか~」とは行けない。

おまえ何しに来たんや~、また売り込みか~、何も買わへんで~というクライアントさんに、はいそうですか解りました。とやってては商売にならない。「なに言うてんの社長、俺が来て嬉しいくせに」とバコバコ入っていかないといけない。

考え方を変えることでその苦悩から脱出した。コミュニケーションの基本は相手を思うことである。相手にここち良い時間を過ごしてもらうために、私は存在するんだ。そのためだったら私は悪魔にもなる、と。

今改めて思うと、このスタイルそんなに悪くなかったのではと思えてきた。記憶があいまいにならないうちに残しておこうと思った。そう思う。決して悪くない。生まれ変わってもこのスタイルで行くと思う。

評価はみなさまにおまかせします。以上がわたしの20年間のスタイルです。よろしくおねがいします。

最後にひとつ。私はいっけんとても良い人そうに見えます。ですが決してそんなことはありません。なんか、やらし~い感じの人です。ご注意くださいませ。