現場にいる優秀マーケッター

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マーケティング。簡単に言うと売れる仕組み。マーケティングは学ではなく、論なので、売れる仕組み論と言えるだろう。マーケティングを駆使して売れる仕組みを追求開発する人をマーケッターとよぶ。

彼らは日々売れる仕組みを考え、古典を駆使しながらあたらしい方法にもどんどんチャレンジする。そういう意味で言うと、中堅営業マン河村操は優秀なマーケッターでもある。つい先日も新しいマーケティング戦術を発見した。

<犬の散歩マーケティング>だ。

その大得意様に住んでおられるお犬様。名前をかりにトーマとしておこう。トーマは私にすっかりなついている。ここまでくるまでにどれだけ通ったかわからない。この店舗滅茶苦茶いそがしい。娘からのたっての願いで犬を飼ったが、なかなか散歩に行かせる暇がない。と言って全然散歩に行かさないと犬はストレスでおかしいことになる。

散歩には連れて行かないといけない、でも強烈に忙しい。散歩の時間が迫って来てイライラが募る。そんなときに店に顔をだしたら最悪だ、絶好のカモだ。「何?この忙しい時に。もっと時間選んで来てよ。売り込みやったらもうこんでいいで、何?」相当苛立っている。最悪のタイミングで河村操は行ってしまったわけだ。おこられまくって「また来ます。すみません」と帰ってきた。ととはいえ、朝から晩まで忙しいこの店、訪問時間を選びようがない。まあいい。

何かいい方法はないか中堅営業マン河村操考えた。まず、なんでイライラしているか考えた。忙しいからだ。そこにセールスがいくと最悪だ。でもいつも怒っているかと言うとそうでもない。忙しいのに怒っていない事も多いのだ。なので単純に忙しいから怒るという図式は成立しない。

怒るときと怒らないとき、何回も怒られながらその社長を観察した。そしてついにわかった。社長が怒るときは仕事以外の何かをしないといけないときだ。忙しいだけなら問題ない。それだけしておけばやがて終わるから。でもそうじゃないときがある。そんな時に怒る流れを把握した。

「あ~、なにまた来たん。忙しいねん、病院もいかなあかんし、買い物も、犬の散歩もいかなあかんし。あ~もう子供が帰ってくる」と言って怒っている。何か仕事以外でしないといけないのに忙しくて出来ないときに怒っている。どうすればいい。仕事以外の用事がいつ発生するかなんて、つかみようがない。出たとこ勝負か。いや違う。

そうだ。その用事を自分がすればいいんだ。自分が手伝えることがあればやる。そうなると凄い。河村操は忙しいところにくる最悪のセールスマンから、忙しいときに社長を助けるスーパーマンになる。

それから河村操は定期的に起こる仕事以外の用事を把握することに着手した。犬の散歩は毎日夕方4時から5時。普段はおばあちゃんがやっている。でも水曜日と金曜日はおばあちゃんが、華道の勉強にでかけていない。その時は社長がやっている。水曜日と金曜日は犬の散歩だ。

高校生の娘を駅に向かいに行く、月曜日と木曜日15:30だ。その日は塾の日。駅に迎えに行ってそのまま塾に送っていく。その日は怒っている。

そして配達。水曜日は決まった施設への配達。5件くらい回る。これは夕方。

いつも怒っているわけだ。火曜日と週末以外はルーティンワークがある。なるほど。河村操は勝ったと思った。下手したらどれも手伝える。よし、まずは娘の迎えからチャレンジだ。

月曜日の15:00に訪問した。絶対怒っている確信があった。とくに休み明けの月曜日はめちゃくちゃ忙しい。「なんやのん河村君。時間選んで来てってゆってるでしょ。」やはりだ。狙い通りめちゃ怒っている。そして、いつものすみませんをこの言葉に変えた。「ぼく、行ってきましょか。」

「なに、どこに?」と社長。「駅です。駅のほうに用事あるし、ついでに娘さん迎えに行ってきましょか。今日塾でしょ。」社長は驚いた表情でこちらを見た。普段は手元から絶対に目線をあげない。セールスごときに目線をとばすほど落ちぶれていない。そんな社長が河村操を見たのだ。そして、「なんで知ってんの」と社長。「いや、この間、そこで会ったんですよ。もう高校生かはやいねえって話ししてて。今日塾やねんって、言ってたんですよ。確か、月曜日と木曜日とっていってたから。そのときにお母さんが迎えに来てくれるって言うてはったんで」半分嘘である。嘘も方便。娘さんと会って話したのははなしたが、あいさつ程度だった。中学生の時にはよくはなしてくれた娘さんも、高校生の今全然はなしてくれない。

「頼んでいい?」「はい、そのまま塾に行きますね。西口でいいんですよね」「そう。そしたらそこの冷蔵庫の中からポカリ一本もっていってあげて、河村君も好きなジュース持って行って」「わかりました」悪魔が天使に変わった瞬間だったのだろう。とうぜん悪魔は社長ではなく、河村操。くそ忙しい時に売り込みに来る営業マンがそれをすくってくれるスーパーマンになったのだから、いってこい、どころの騒ぎではないのだ。

かくして、河村操はこの店にとって最大の貢献をする営業マンになった。こうなったらもうセールストークも難しいマーケティング論もいらない。もちろんセールストークや難しいマーケティンング論も必要。科学的なマーケティング論がわれわれを救ってきた事は星の数ほどある。でも、それがすべてではない。数学や科学が届かない領域があるのだ。

こんかい発見された、犬の散歩マーケティングこれは、いくら天才のマーケッターが机上で考えてもでてこなかった理論だろ。現場でしかみつけられない。現場が全てとはいわないが現場で起きていることは時として、数百万のデーターの上を行く。事件は現場で起きている。

中堅営業マン河村操はこの後、次々に問題を解決。社長の配達の運転手をしたり、犬の散歩もすることになった。犬の散歩はひとすじ縄では行かなかった。そのはなしはまたいずれしようとおもう。今私の声がするとトーマはリードを加えて飛んでくる。それはそれでとてもかわいい。でもスーパーのレジ袋に手をいれてトーマの排泄物掴むのはいまだになれない。あたたかさと、柔らかさが程良いのが逆に寒さをます。

最近娘さんが少し話してくれるようになってきた。どうしてもお母さんの後を継ぎたいようで、必死で勉強しているのだそうだ。

週末以外は営業マンとセールスが列をなしている。そんななか、私は奥から社長に呼ばれる。「河村く~ん入って」このマーケティング論。ライバルに教えるのはもう少しあとにしよう。