The 営業マン

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営業って聞くと売り込み押し売り無理やり売るというイメージを持つ人も少なくない。えっ、営業やってるのと苦虫を噛み潰したような顔をする人もいる。皆さんは営業にどういうイメージをお持ちだろうか。厳しいキツい世界だと思っている方が多いと思うが、まあ当たっている。景気が悪い状況下においても歩合制のセールスは常に人材募集がある。離職する人が多いのだ。

営業マンはまさに壮絶な経験している。そのうちのひとつ、とあるセールスマンの体験を今日はご紹介する。最近再び営業活動を再開してその厳しさを知り、なつかしい出来事を思い出したので書く。

営業はモノを売る。売るのも大変だが、売りっぱなしでは駄目。当然代金を回収しないといけない。現在でこそ振り込みや自動引き落としが主流だが、当時は集金をしていた。もちろんこの集金がとても大切なのは間違いない。売った代金を回収できないのならどうしようもないからである。集金率100%は当然で回収できなければセールスに相当なペナルティーがつく。

新人時代から順調に回収していた彼に大きな展開がある時起こった。セールスを始めて3年位の時だ。いつものように月末25日に集金にきてくれというお客さんのところにいったら払えないという。申し訳ないが月末にもう一度きてくれと。その店はいつもすっと支払ってくれていたので、なにか理由があるのだろう。忙しかったのだろう、じゃあ月末でと、かるく受け、再び回収に。

月末に行くと、申し訳ないが払えないという。それまでの彼は集金率100%を誇っていたので、それは困る、理由はなんですかと迫った。するとクライアントさんはとてもいいづらそうにお金がないと言い出す。いや、こっちも困るんですと、迫る。

お金がないというのに相当プライドが傷ついているのを新人の私は見抜けなかった。当たり前のように回収を迫る私に社長はついに切れた。

「なんやお前。えらそうに。こっちは申し訳ないって頭下げてんのに、わかった。もうええ、お前のとこと取引辞める。これ全部もってかえれ」

といいながら商品をどんどん投げ出した。驚いた私は

「しゃ、しゃちょう。ちょ、ちょっと待って下さい」

と社長の腰辺りにひざまづきながら抱きついた。

「や、やめてください。わかりました、お金はいいです。会社に帰って事情を説明してきますから」

と泣きそうに泣きながらすがった。それでもしばらく社長はやかましいといいながら次々商品を放り出した。必至であやまり泣き懇願したおかげでようやく収まった。

肩で息をしながら呆然とたっている社長をみながら彼は床に放り出された商品の誇りを払いながら棚に戻した。少し落ち着いてきたのを見計らって私は言った。

「社長すみませんでした。考えたら当然ですよね、売り上げが悪い時も当然ある。わたしは会社からお金は絶対にもらってこいという教育を受けてきたのでそれが正しいと思っていました。新人で入った今までこんな事がなかったので当たり前と思っていました。帰って上司に相談してきますので申し訳ありませんが一度帰ります」

と言って帰ろうとした。すると社長は落ち着いたのか

「すまんかった。大切な商品を放ったりして。色々あって今月は本当に苦しいんだ。来月必ず払うからすまん」

と頭を下げた。もう頭を上げてください社長と恐縮しながら私は店を後にした。

 壮絶なやりとりがあったなあとボーッとしながら会社に戻るため車を走らせていた。すごかったなあ、よく考えたら今までお金100%もらえてたな、当然こういうこと今後もでてくるだろうなと考えていた。事実、そのあたりでバブルがはじけはじめ、お金を払う、そしてもらうというのが当たり前ではなくなりはじめた。

売ってさえすればお金をもらえていたのに、回収できるかを考えながら売らないといけないというのを考えるようになった。当たり前のことなのに考えていなかったことを考えさせられた。

会社に帰った彼はそのことを上司に相談したが、予想どおり烈火のごとく怒られた。代金を回収できないのなら売らないほうが良いと思い切り怒られた。猛省はしたのだが、モノを売るということはお金をもらうまでが仕事なんだと心の奥深く刻みつけられた。

その日は長い営業活動の中でも強烈な印象を与えてくれる日だ。今でも鮮明にそのシーンが残っている。鬼の形相で商品を片っ端から投げる社長。不安な顔でそのようすをみる従業員達。スーツのまま床に膝をつき腰にしがみつき泣きながら懇願するセールスマン。

もらえなかったお金はその後3ヶ月後に回収できた。セールスには遅延のペナルティーがついたが回収できたことで大きな問題にはならなかった。それを機にお金に対する考え方がかなり変わった。子供の頃から刻み込まれてきた、ものが欲しい時に店に払う銀行券という感覚にあらたな意味を見いだした。

その人の人生をも左右するとても重いものであるとあらたないみを持つものとなった。ドラマでみるような壮絶なシーン。実際に行なわれているのである。