新快速の中で出会った天使はリスクを恐れずにチャレンジするOLだった

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リュックがすきです。両手があくというのがなんともここちよく、リュックを多用します。リュックサックって最近はいわないのかな。昔は同じような背負う系のやつでナップサックとかもあった。リュックサックの少し後でディパックってのもいっとき流行ったが、結局あれは何だったのかな、形がアルファベットのDに似てるからそう呼ぶのだよと誰かが言っていたような気もするが、定かではない。いずれにしろ今ディパックと口にする人はほとんどいないのでまあいいだろう。

よほど堅苦しい席でなければ、かばんはほとんどもたずもっぱらリュックだ。スーツにリュックはおかしいが、利便性にはかてないんだよなあと、そんな感じだ。

今回はそのリュックの話。

大阪である仕事のため、わたしは新快速にのり草津から大阪駅にむかった。お昼の時間帯で社内は比較的空いていた。草津駅から席につくことができ大阪駅まで座って移動することができた。

リュックを足元におき、グリコのカフェオレ500MLを窓のさんに置き、読みかけの本をだし、大阪までの小旅行を楽しむのがいつものパターンだ。おもしろい本が手元にあったので、快適にあっというまに大阪駅についた。まもなく大阪駅ですよという社内案内があったので、わたしは席をたつ準備をした。

本をリュックにしまい、飲みきったカフェオレをリュックの中に押しこみ立ち上がった。隣の席には誰もいなかった。

比較的空いていたので、私は社内でリュックを背負うことにした。混んでいる場合は、ぐるんとリュックを背中側に放り投げるように回して背負う行為は著しく迷惑をかけるので、社外にでてから背負うことにしている。

この日はひともまばら、後ろに誰も居ないのを確認してまず左手をリュックにとおし、反時計回りに本体をまわし背中側に放り投げる。バランスよく荷物がはいったリュックはゆっくり回転し、私の背中におちついた。そろそろ駅にはいりますよというところで、あとは右手を肩紐に通したら完成だ。今日は上手くまわせたので、肩紐も見事にいい位置にきているだろうなと思いながら右手を肘からおりまげ、手のひらを天に向けて手首から屈曲させ、後ろに回す。
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ない。

みつからない。私のリュックの肩紐は、結合部分がなぜかとても柔らかく、簡単に外側にまわってしまう。ほんらいリュックの背中側にでていないといけない肩紐が、なぜか、反対側に回り込んでいる。かつぐ前に確認すればいいのだが、毎回肩紐がなくなるわけではないので、確認するのを忘れる。

およそ10回に1回くらいの割り合いで肩紐がどこかにいってしまう。その10回に1回がでた。なんだよ、またないやんけと思いながらも懸命に探す。

10回に1回の1回の3回に2回は、それでも探せばなんとかなる。手首をさらに屈曲させ、胸をひらき胸をそり、さらに後ろ側に右手を回すことで、奇跡的にその肩紐に届くことがある。

10回に1回しかでないし、さらにでたとしても3回に2回はなんとか手にすることができるので、本当にとれずに、リュックをおろして、もう一度担ぎなおすケースは、実際ほとんどないのだ。だから、いちいち確認しないのだろうが、その1回がでてしまった。

ないとおもってから、さらに屈曲させ探す。それでもないから、胸を開いてさらに後ろに手を回す。ところがとどかない。ここででるかと、ついにはあきらめた。しかたない社外にでてからリュックをおろして肩紐を定位置に戻そうとあきらめたそのとき、奇跡がおこった。

なんと完全にどこかに見失った右側の肩紐が、正面を向いている私の右目の視界に飛び込んできたのだ「はい、どうぞ」というかわいい声とともに。

一瞬なにがおこったかわからなかった。完全にあきらめていた右の肩紐が、今手を伸ばせば届くところにある。私は完全におろしていた右手の肘を屈曲し手首を屈曲し視界に入っている右肩紐とリュックの背中側が作る空間に手を入れた。

入れた瞬間に何が起こったか完全に理解できた。右手を空間に通す時に写した目線の先に自分の手ではない手が見えたのだ。

そう、なんと、大阪駅でおりようと、私の後ろに並んでいた30代半ばのOLのお嬢さんが、わたしの薄汚いリュックの右肩紐を掴んで、私が届く範囲に、右の肩紐がなかなか探せずについにはあきらめたわたしの姿をみて、そっと手を差し伸べてくれたのだ。

状況を把握した私は、空間に手を入れるために半身になった上半身をさらに半回転させ、うしろに立っている女性にお礼をいった。どうもすみません、ありがとうございますと。

そのOLは、いいえ、どういたしましてって感じで、口角をあげて、わたしのお礼に答えてくれた。

できそうでできない行為だよねこれって。昨今の事情から、そういった親切がトラブルに発展することもある。なに触ってるねんってことにもなりかねない。何だてめえ、人のかばん、盗もうとおもったのかっていいがかりをつけられることもある。そんなリスクがあるにも関わらず、彼女は、リュックの肩紐をとり、私にわたしてくれた。

なんとも勇気のある行動だと思う。

そういうことを、みなすればいいのにと推奨しているわけではない。充分注意してやる必要がある。もし立場が逆だったら、私は助けていないと思う。年頃の女性の所持品に、電車の中でむやみに触れる行為は、リスクが高すぎる。なんだよ、今の世の中、人助けもできないのかよと思ってしまうが、そういう冤罪で一生を棒にふるひともいるので、本当に注意が必要だ。まあかなしいが。

まあそれはおいておくとして、その日わたしは、とてもすばらしい親切をうけることができた。この親切は、違う形で誰かに返そうと思う。

それにしてもすてきな人だったなあとおもう。1秒にも満たない時間で、判断し、きたない肩紐をてにとり、私に差し出した彼女、きっと、そうとうな手練にちがいない。よの婚活男子諸君、世の中はいい女であふれているぜ。