大阪の下町はまるでアジア。新大阪の『やよい軒』でいきなり声をかけてきたおっさんは、いったい何ものだったのか。

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今日のお昼は、やよい軒。ごはんおかわりし放題の定食屋。まあダイエッターの敵とも言えよう。

時間は15時過ぎ。完全にアイドルタイム店内は人が少なくゆったりと食事ができる。この店は食券を事前に購入するシステム。入口付近に券売機が2台並んでいる。

店内に入ると60代のおじさんが右の券売機の前にいたので、わたしは空いている左の券売機に。

おじさんの体が、少しこちらの券売機のほうに入っていた。ぶつからないように体をくねらせて壁とのあいだに入り、これまたぶつからないように右手を伸ばしお金を入れる。当たらなかったのだが、最近荒い鼻息を感じたのか、最近出ているような気がしている加齢臭が鼻についたのか、おじさんは、俺の気配を感じ勢い良く振り向いた。

背後をとられたか侍のような勢いでおじさんは振り返ったので、私は一瞬たじろいたのだが、ペコリと、臭いを提供したことをわび、お金をいれた。するとおじさんはいきなり俺にむかって

「兄ちゃん、すまん。いつも俺が食べてる定食どれかなあ」

ん?ちょっと待てよおっさん。俺は滋賀の人間や、ほんでここは大阪や、なんぼなんでも、おっさんがいつも食べている定食が何かは知らんわ、何を聞くねん、やっぱ大阪すごいわ。
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と頭の中を一瞬のうちに駆け巡ったが、なんぼなんでも、そんなこと聞くやつおらんやろと頭をきりかえ、おっさんのほうの券売機を見た。

すると答えがわかった。実はこのやよい軒、定食だけではなく、どんぶりや、サイドメニューや飲み物がある。

一枚の画面にはおさまらないので、ブラウザーのchoromeのように上にタグがついているのだ。どうやらそのタグがわからず、画面を切り換えられないのだ。いやあ、おかしいな、いつも食べてる定食がこの画面にのってないぞ、それで悩んでいたのだ。その質問が形を変えて、兄ちゃん、おれがいつも食べてる定食なんやったってなったのだ。

そこまでの判断を私は1秒に満たない時間でこなしている。脳ってほんますごいなとおもいつつ、俺は指でタグを押した

「この上のとこ押すねん。ほんだら、画面が切り替わるやろ、ほら」

とゆっくりと定食1 定食2 定食3と押して行くのだが、押しているところはみちゃいない。そんなのはどうでもいいのだおっさんにとって、それは兄ちゃんが押して、俺は、画面みとくからと言った感じだ。

おいおい、おれはおっさんの古女房やないで、おっさん自分で押せよと思いながらも、まあ大した労力でもなかったので、はいどうぞという感じで画面を切り換えてあげた。

しかし、定食の1,2,3,を見てもないという。

「おかしいなあ、いつも食べてるんやけどなあ」

と言っている。もう、ういやつじゃとおもいながら

「おっちゃん、どんなやつや、肉系か、魚系か、なんや?」
「えーっと、上に色々のってるやつや」
「色々ってなんやねん、肉か魚か」
「なんかいっぱい乗ってるんや、なんやったかなあ」

なんやこのおっさんはと思ったが、乗りかかった船だ最後まで付き合うことにした。俺もいっしょに、なんやしらんけどいっぱいのっているやつを探した。

すると写真に色々乗っている奴があった、見つけたおれは

「おっちゃん、これちゃうか、これ色々のってるで」

と指をさした。するとおっさんは、画面に目を近づけて

「おおお、これかなあ、あかん、見えへんわ。ちょっとメガネ取ってくるから待っといて」

吉本新喜劇にはいって、ズッコケルやりかた学んどいたらよかったと思った。なんやそれって、小声でつっこんだ。そもそも見えてなかったんかいと。

おっさんは、券売機にお金をいれたまま席に戻った。席に戻ると同時にメニューを確認していた。はよしてーな、おかねはいってるからおれ立ち去られへんやんけと思ってた。

席には、その古女房が座っていた。かかあ天下で、食券をかわされているようだ。おっさんが駆け足でもどってきた

「兄ちゃんすまん、色彩々とか言う奴や」

そういわれたので、画面をみた。さっきのであってた。

「おっちゃん、やっぱりこれや、おうてたで、押すで」

食券がでてきた。

「兄ちゃんありがとう」

とおっさんは言ったが、立ち去らない。そうやんな、奥さんのも買わなあかんもんな。ここまできたら仕方ない、最後までつきあうことにした。

「奥さんは何にするん」

と俺はきいた。するとおっさんは、うれしそうに俺を見て

「兄ちゃん、あれ、女房ちゃいまんねん」

言った。

「しらんがな」

と俺は思わずつっこんだ。あれは俺の女やねんやるやろ俺って言ってる感じがうざかった。ええから、はよ何食うか言えよと思った。

「悪いなあ兄ちゃん、生姜焼き定食一つ」

はい、おおきに、生姜焼き定食いっちょうね、って厨房に向かっていいそうになったわ。生姜焼き定食ひとつって、頼みかたおかしいやろと思いながらも、はいはいと生姜焼き定食を押した。

俺は、自分の食券機で、おっさんの女とおなじ、生姜焼き定食を押してようやく席についた。

大阪って、本当にすごい。滋賀県も京都も兵庫も奈良も同じ関西だがなんか違う。この街は東アジアの都市って感じがする。
すみませんとか、こんにちわとか、あの〜とか一切なしでいきなり

「兄ちゃん、おれがいつも食っている定食なにかなあ」

だ。なんともいえない、感じがある。

機会があれば是非大阪の下町をブラブラしてみてください。あまりにも庶民的なフレンドリーなコミュニケーションを体験できるかもしれない。

今回のエピソードはあまりにも無茶苦茶だが全然嫌な感じがしないのは、大阪人の人柄なのかもしれないなんとなく、あったかい気分になった。

そんなこと考えてたらご飯を4杯も食べてしまった。これから仕事なのに頭が回らなくなる。