きれい好きになり整理整頓がおぼつかなければクビになると思った男がとった行動とは

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「あかん、このままではクビになる」

石川県加賀市にある尼御前サービスエリアの喫煙コーナーでタバコを灰皿に押さえつけるようにグリグリしながらつぶやいていた。大学を卒業し営業マンとして会社にはいった僕は持ち前の口のうまさと積極性を武器に売上をガンガンあげていた。何だよ営業なんてちょろいなと思った僕は仕事をなめていた。そして仕事に慣れ始めた3,4年ころから持ち前のええかげんが顔をだし、商売が適当になりつつあった。

あっ、しまった。このクライアントに新製品のサンプルを持ってくるように頼まれてたんやったというのを店の駐車場についてから思いだす始末。だめだな、この店には今日寄れないや、来週にしようと勝手に決めて店から離れてから店に電話をいれた「社長、すみません本日お伺いすると言ってたのですが都合が悪くなって、来週お伺いしますので」電話ボックスから電話をかけた。

あかんあかん、ちゃんとしないとなと自分に言い聞かせながら胸ポケットから手帳をだし、

□5/7 〇〇商事に新製品のサンプル持参

と書いた。よくみるとチェックがついていない、処理していないチェックリストの項目が山になっていた。しっかりやらなきゃなと思いながら車を進める。そして次のクライアントに近づく。そこで再び僕はしまったと口にする。だめだ、この店にもはいれない、ここはポスターを持ってきてくれと依頼されていたのだ。店に車を停めることなく通過した僕は電話ボックスを探して電話をかける。すみません都合が悪くなってと。

悪循環

手帳の中の処理されていないチェックリストの項目が膨大になりやがて見るのも嫌になる。それにより店にいけなくなる。困ったなあどうしようかなと考えた僕がとった行動は完全に常識を逸脱していた。

普通ならどうするだろう。チェックリストを見直し、機能するように改善し、気持ちを入れ替え、心を入れ替えて約束を守ろうとしていくだろう。ところが僕は、世紀の大発見のようにこういった「そうだ、アポをとらなければいいんだ。だったらいちいち訪問できない断りの電話をいれなくてすむ。しかもサンプルを持っている時、ポスターを持っている時に店にいけるので効率がいい、俺って頭いい」と。

どうしようもないバカである。完全に逃げていた。そこから僕の転落人生ははじまった。アポをとらないからとくだんここにいかなきゃってのがなくなる。自分が行きたいようにいけばいいのだ。それでも最初は機能していた。店を訪問するという習慣が身体に染み付いていたからだ。今まで通りの訪問数は回っていた。ところが、約束を守らない、頼まれたことを忘れるというのは全然治っていない。

店に近づくと、頼まれていたことを思い出す。当然用意していないからその店はスルーする。ある日、ついに僕は1件も訪問できない日ができてしまった。店に近づくたびに不履行の約束を思い出す、そして結局その日はどの店にも入れなかったという日ができてしまったのだ。もう最悪である。

どん底。底辺の営業マン

やがて僕は店をまったく回れなくなった。

もちろんゼロではないがそんなに依頼をしてこない仲のいいお気軽なクライアントだけを回っていた。何も言われないからだ。当然売上は下がる。成績は低迷し全国でも有数のだめだめ営業マンに成り下がった。そうなってくると自分に残るのは口八丁手八丁のエセトーク術。そんなものが通用するわけもなくどん底まで落ち込んだ。

クライアントからクレームがはいる。お宅の営業マン最近全然こないけどどうなってるのと、上司にクレームがはいる「河村ちょっとこい」となる。

上司に文句を言うクライアントもいれば、他メーカーの営業マンに聞く人もいる「最近河村くんどこかでみた?うちに全然こないんだけど」と聞く。聞いた営業マンはどうするか。もちろんだがそれを利用する。他の店に行って、聞くふりをする「社長、最近ハワイ商事の河村さんって来てます?そこら中でこないんだけどと聞かれるんですよ」と。

クライアントは横のつながりがある。一気に評判が広がる。ハワイ商事の河村は店も回らず遊び回っていると。パチンコになど行ってないが、パチンコ屋にいりびたりとかわっていく。

やがて営業マン河村操は最低最悪の営業マンと化す。

訪問しない営業マン

そんなばかな、これはひどいなと思っておられる上司の皆さん、経営者の皆さん。実はこんな営業マン思っている以上に多いです。河村操の悪循環はちょっとしたことで始まっています。そうです約束の不履行です。

手帳に書いたチェックリストを日々見直し、朝にチェックして、新製品のサンプルとパンフレットを用意していれば大手を振ってクライアントにいけたのです。河村操は仕事熱心でした。サボろうとなんてまったく思っていなかったのです。ただ、少しというかかなりええ加減で約束を守るのが苦手だっただけなのです。悪のスパイラルはそこから始まるのです。

約束を守るって大事ですよと皆知っていますが、ここまでひどいことになるとは誰も思っていません。その後は営業を22年続け、後輩や部下を持つようになりましたが、いい加減な約束を守らないやつらをたくさんみてきました。みな同じです。店を回らくなり、それではだめなので嘘をつき始めます。

私は筋金入りの約束不履行者なので、そんなやつらの嘘はすぐ見破るし、行動はすけるように見て取れます。さぼろうと思っている人は意外に多くありません。人と話すのが苦手だとか、僕のように約束を守れないってとこから始まるのです。約束を守らないって、それすなわちええかげんとも言えます。約束する相手をリスペクトしていません。人生を、人を、世の中をなめているのです。

どん底を見た僕はそこから一念発起しV字回復で優秀な営業マンになっていきます。全国ワースト3になった僕が全国でもトップクラスにまで戻ったのです。いったい僕はどんなマジックを使ったのでしょう。

ゴミ屋敷ならずゴミ営業車

部屋の乱れは心の乱れってのを聞いたことがある人は多いと思います。

ご多分に漏れず、いい加減な奴の典型であるように、車の中は汚くてしかたなかったです。汚いには二種類あります。英語では明確にわけられていてダーティーとメッシーです。

汚れているのがダーティーで、散らかっているのがメッシーです。当然私の車は両方です。汚くて散らかっている。運転席だけが唯一スペースがあるといった感じでした。仕事の都合上、車の中には備品や商品をまあまあ入れておかないといけない感じでした。なので、整理ができていないとあっという間に車の中が乱れ始めます。斜めに置かれた箱は必要以上にスペースをとります。

食べかけのお菓子や缶コーヒーはそんな中で、奇跡のバランスをとって斜めに置かれています。前の車の急ブレーキで車内の荷物がいっせいに前に飛び出します。危ないです。返品になった商品が入った段ボール箱が見事に缶にヒットし、7分の1ほど残っていたコーヒーは助手席のシートにその2分の1をこぼして床に縦回転しながら落ち続ける缶コーヒーから残りの2分の1、14分の1を床に撒き散らします。

車を停めて左後ろの座席に置いた新製品が入ったダンボールの角がささったボックスティッシュに手を伸ばし、ダンボールの角で、かさかさに乾いた手の甲を削られながらティッシュをとって助手席を拭く頃には、すっかり染み込んで28分の1程度のコーヒーをテイッシュに染み込ませて終わります。がっかりした僕はそのティッシュを助手席の足元にほうりなげます。いつのかわからないヤングマガジンの上に見事に着地し張り付きました。

そんな状態でまともな仕事ができるはずもありません。そんな営業マンが生きていけるはずもありませんと思われるでしょうが、意外にそんなことはなく、そんな営業マンは結構います。口が達者な人が多いですね。彼らはそれを口でごまかします。

掃除を始める

それから随分たってですが僕は動きだします。優秀な営業マン仕事ができる営業マンを先輩後輩自社他社を問わず調査研究分析しまくりました。研究者気質なのでそのあたりは得意でした。そうやって見てみると、できる人の共通項がわかりました。

3S

です。35億じゃないですよ、サンエスです。そうでないのに優秀って人ももちろんいますが、仕事ができる人の多くが見事に3Sでした。整理整頓清潔が見事に実践されていました。その時に思いました。車を洗うってのも実は大事なのではないかと。

それまでは日曜日に車を洗っている人を見ては、せっかくの休みなのにもったいないなあ、車なんて汚れるのにと。それが営業車になると自分の車でもないのになんで顕なアカンのと思っていました。でも優秀な人の車は外も中もきれいでした。もしかしてってその時思いました。

禅の教えにも掃除がまっさきに入ってるのはそれか。そういえば母校の校訓みたいなのは一に掃除だったな、ちなみに母校は仏教系の高校。これかもと興奮した僕は福井県の永平寺に行ってきました。永平寺は曹洞宗のお寺ででかいです。曹洞宗は禅宗のひとつですから、キレイかなあと思いながら行きましたが、ピカピカでチリひとつ落ちていませんでした。

あんなでかい寺なのにキレイなんてものではなく深く感銘を受けました。

いっぺんにやろうとすると失敗します。今までの僕はそうでした。完璧主義者なのでやりはじめると一気にやってしまい、疲弊して最後までやりとげられず諦めてしまい結局元の木阿弥です。それを知っていた私は、ひらめいただったか、何かで読んだかだったか忘れましたが、ごくごく小さなスペースからやることにしました。コツコツとでも毎日。

まずは車の洗車です。全部やると大変なので、鉄板一枚だけをやることに決めました。わけがわからない決定ですが、これが功を奏しました。右側前のタイヤの上にある右フロントのボディだけを洗いました。水を含めたタオルで拭き、乾いたタオルで拭きます。これを毎日やることにしました。最初は時間がかかりましたが、毎日やるとほとんど汚れていないので1分もかかりませんでした。

拭き始めは異様です。右のタイヤの上だけピカピカにひかっているのに、それ以外はドロドロです。コントラスト感がでて、右前は輝いて見えます。クライアントで商談を終えて、車に戻ってくるとあまりにもそこが光っていてキレイなので、手でなでるようになりました。その部分の鉄板だけ愛着を持てるようになりました。

それを2週間続けたとき、私はついにとなりの鉄板に手をだしました。右のドアです。私は右前に加えて右のドアも洗い始めました。最初は15分くらいかかりました。汚れがこびりついて取れないのです。特に下の方はドロドロです。それでもそれを続けるとやがてそのドアも1分しかかかりません。もちろん右前も続けていますが、2枚で2分弱です。

その後は2週間毎に枚数を増やしていき、最終的には、11枚全部を洗うことに成功しました。前は少し大きいので2分。天井はドアをあけてよじ登るないといけないので5分くらいかかります。それでも全部洗うのに16分です。

昼休み、食事をとったあと少し休憩して、さあ昼から回るぞという前に15分ほどかけて毎日洗っていました。それが習慣化してきたとき、わたしはついに中にも着手することにしました。いっぺんにやろうとして元に戻った反省から、中身にはこの時点で手をだしませんでした。外がキレイのに中が汚いのはストレスがたまりましたが、外が習慣化するまで中は手出ししませんでした。

そしてやがて、僕は中に手をだしはじめるのですが、それは一筋縄ではいきませんでした。それについては、長くなってきたので、またあらためて書きます。加筆修正した時はまたお知らせします。

営業車をお持ちの皆さん、まずは車の洗車からやってみてください。車がない人は台所でもリビングのテーブルでもなんでもいいです。

(写真は現在の書斎の様子です。A4の書類は全てこのファイルにいれています。これ以上増やさないように増えた分はデジタルで保管しています)