営業マン河村操は仕事を通じてクライアントさん、またその先の消費者と触れる中で感動し涙を流したことが数度ある。今日はその中の1つについて話したいと思う。
POPというのをご存知でしょうか。小売店の店頭にあるものです。商品についての説明と思っていただければいいと思います。「本日解禁ボジョレヌーボ!今年は例年になく出来が良いそうです。200本入荷。売り切れごめん。早い者勝ち」「2月3日は節分。恵方巻きのご予約受付中」「10個入り230円」
こういった文言が紙やボードに書かれて商品と共に使われているのがPOPです。経費のいらない店員とも言われ、POPが商品の売れ行きを左右する大変重要なものです。小売店によってはこのPOP作成の専門家がいます。よいPOPをつくるのは専門性が非常に高いのでそのプロを置いている小売店もおおいです。
新人河村操、中堅河村操、ベテラン河村操。経験を積むごとに成長して来た河村操ですが、このPOPだけは残念ながらまったく成長が見られなかった。もちろん自分自身勉強もしたし努力もしたが駄目だった。早々にあきらめ、この道に得意な人間を探すことに方向性を変えた。
そのかいもあり、良いPOPを集めさせたら社内でも有数な人間という地位を築くことができた。「いいPOP欲しいの?そしたら河村さんに聞いてみ?」「えー、そうなんですか、あの人POPつくるの上手いんですか」「いや、あの人は作らないよ。パクんのが上手いねん。色々持ってるから聞いてみ」
完全にPOPパクリの達人と言う肩書きが定着した。
いつものようにPOP作成のスペシャリスト(後輩の営業マン。すばらしい色使い、フォントバランスを持つ天才)に「B製品のPOPエエのあるんやろ、メールしといて」「おっさんまたか、たまには自分で作ったら」おっさん呼ばわりである。まあ、仕方ない。私はただのPOP泥棒なのだから。へらへらした笑顔をその天才に投げ、その場をさる。夜にはそのPOPが私の受信箱に入っている。メッセージとともに「生中5杯。これでもう20杯くらいになっています。とっととおごってください。もうあげませんよ」かわいい後輩である。私のことがよっぽど好きなんだろう。
早速プリントアウト。カラーコピーしてパウチをする。パウチをするというのは、ラミネートシートという熱を加えると硬くなる、紙や写真を保護するもの。パウチをすれば硬くなり痛まず、しかもカラーの色が映える。パウチしたものを今度は切る。はさみを使って文字の形にそうように切る。文字が浮き出す感じになり効果が倍増。背景の白を数ミリのこして切るのがみそ。これはおなじくPOPの達人である上司に教えてもらった。前述の天才児はこの上司の弟子。私はセンスがないので破門された。人には得て不得手がある。別に落ち込んでいない(涙)。
明日はクライアントを7店回る。そこで使うのだ。店頭を回り商品を飾り、助成物で演出し最後にPOPを貼る。この作業で使うPOPを天才児に依頼。こんかい使うキラーPOPは「7才から飲めます」キラーPOPと私たちはよんだ。その1枚で劇的に売り上げが変わるPOPそれをそうよんだ。このキラーPOPがどうも良いらしいということで我々は動いた。
私たちが扱う商品は服用するものが多い。さらに商品ごとに服用できる年齢が厳格に決められている。この商品は15才以上とか、3才からとか、7才からとか。子供用と大人用が分かれているケースが多い。
ところが今回の商品は7才以上〜大人まで飲める商品。ライバル品は大人用と子供用が分かれている。(うちだけの商品が子供から大人までではない。他にももちろんある。他者に比べて極めて優位性があるというものでもない。ただ、それを明示するかしないかでおおきく違ってくる)そこを全面的にアピールするPOPだ。
そのPOPをその日はつけて回った。3店舗目で事件は起きた。他店舗と同様の作業をおこなっていた。商品を出して、飾り、演出してキラーPOPを貼った。そして他の商品のメンテナンスをしていた。そこに親子連れが商品を買いにやって来た。
母親が息子に「ちょっと待ってね。先にお母さんの探すから。あとで、ひろ君(仮名)の探すからね。」「うん。わかった」とひろ君。お母さんの手をしっかり握っている。お母さんとお子さん。ふたりに同じカテゴリーの商品が必要なようだ。まず、お母さんが商品を探している。色々物色している。大人用のコーナー。「どれがいいかなあ」と探している。
わたしは「いらっしゃいませ」と声をかけた後、作業を続けている。そのときである。お母さんが「あら、これ」と声を発した。「これ、7才からって書いてある。ちょっとまってや」と商品をとって注意書きを見ている。きた〜。キラーPOPが効いたのだ。「ひろ君いいのがあった。これやったらひろ君とお母さん同じの飲めるは。これにするわ。」とひろ君にいった。するとひろ君。ものすごく嬉しそうな顔でおかあさんを見て「うん。」と大きくうなずきながら言った。すこし弾んだように見えた。そんなに嬉しいのか。子供はお母さんと同じのを飲めるのがそんなに嬉しいのか。えーなんで、そんなに嬉しいんか。
急に胸に熱い物がこみ上げて来た。訳が分からず目がうるうるしてきた。愛に触れたからだろうか。これほどの深い愛情があるのだろうか。人を無条件にあいするというのはこれほど感動を与えるのだろうか。そういわれたら、映画でもそういう愛に私はめっぽう弱い。その感動を目の当たりにしたその瞬間。涙が出てもおかしくない。
自分が作ったPOP(実際にはパクった)でこれほど人を幸せにできるんだと猛烈に感動した瞬間のひとつだ。商品が売れたのも嬉しいが、これほどまで貢献していることに本当に嬉しくなった。現場の営業マンでしか味わえない。しかも、そう簡単には遭遇しない瞬間。とても興奮した。
その興奮状態を保ったまま帰社し、次々に同僚に話した。反応はいまいち。俺が興奮し過ぎなのかあまり反応が良くない。泣く人なんかはもちろんいない。「良かったですね」「良かったやん」ぐらいの反応。
ノルマがあり。売りまくらないと営業マンとしては評価されず、辛いことの方が多いけど、こういう瞬間があるからやめられない。人は自分が幸せより、人が幸せになったほうがうれしいのだろうか。
どうなんだろう。ブログで書いたけど、この感動は読んでくださっている方につうじるのだろうか。それとも、良かったですね、で終わるのだろうか。
この体験はベテラン営業マン河村操の体験、19年目のはなし。これだけ経験を重ねてもあらたな発見があるんだなあと思った。それとも単に年をとり、涙もろくなっただけなのだろうか。
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