今日は冒頭引用文をお届けする。ー以下引用ー
「お前は詐欺師か」
社長は、そう大声で怒鳴ると、机の上に広げていた領収書を、左手で乱暴に掴み、吉田遼太郎に向かって投げつけた。顔を一切こちらに向けることもなしに。毎月の集金日である25日。午後2時を少し回った夏の終わりの出来事だった。
店頭に入った時から、遼太郎は違和感を抱いていた、何かがおかしい。
営業マンになって、つまり、この会社、株式会社小鳩製薬に入社して7年。すっかり中堅になった遼太郎には、ある種のカンのようなものが備わりつつあった。ベテランの刑事や、だんなの浮気を一瞬で見抜く奥さんが持つカンと同類のものだ。朝から晩まで、クライアントと上司に叱咤激励され、媚びへつらって過ごしてきた7年にわたる、人との関わりの中で、圧倒的な経験と実績を積んできた遼太郎の中には、とんでもない量の人との関係に関するデーターが蓄積されていた。
それに、元来から持つ、思考好きな資質、変わり者の哲学者のような狂気な思考と、圧倒的とも言える読書量による情報と知識が合わさり、それがやがて、遼太郎の知恵となった。その知恵は脳内における、もともと多くない意識の領域から、次々に無意識の領域に押し込まれた。無意識下にあるデーターはそれぞれが相互に作用し、独自のアルゴリズムにより、ある種独特のフォースを形成していった。
日々襲ってくる強烈なストレスから、半ば自己作用的に脳が自分自身を守るために、必然的にあらわれた独特のものであると言えよう。その能力が、将来、日本を、あのとんでもない出来事から守ることになるとは、この時はしる由もなかった。
違和感を感じながらも遼太郎は、通常のプロセスを丁寧に踏み、店舗の一番奥にある、社長が在する事務所に向かって、一歩一歩足を運んだ。やがて長い廊下を歩き終えた遼太郎はドアの前に立ち止まり、大きく息を吸い込み、姿勢を正し、右手を肘の部分から折り曲げ、前腕を上に持ち上げながら、拳を握り、ドアを3回叩いた。
「どうぞ」
いつものそれとはワンオクターブ違う声に、やはり何かあると確信した遼太郎は、吸い込んだ息をフーっと長くゆっくりと吐き、ドアのノブを右に回し、静かにドアを押した。失礼しますとの声と共に。
ー引用終了ー
わたしは1日8000文字を書いている。6000字をブログやメルマガやSNSを経て、世の中に放出しているのだが、残りの2000字は小説を書いている。冒頭の引用は、現在執筆中の小説『営業マン吉田遼太郎の日常』の一部だ。
執筆中と言っても、勝手に書いているだけ。これを形にして、出版社が公募している、新人賞に出す予定なのだ。いままで、完成した作品は3つ。すべて1次審査で敗退。まだ一度も審査を通過したことがない。
この小説は文学で、ターゲットは群像新人賞。才能があるかないかはわからないが、まあ、通るまでは書き続けようと思っている。書き始めたころから比べると圧倒的に成長しているので、このまま伸びが止まるまでは書いていこうと思う。