「ついたら電話ください」の敬語は「つかれたらお電話くださいね」ですか

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梅田のコワーキングスペース。

注意していなくても、隣の人の声が聞こえてくる。隣りに座る素敵なマダムの携帯に電話がかかってきたiphoneの軽快な着信音が鳴り響く。マダムは軽快にとった

「もしもし、はいわかりました。じゃああと10分位ですね、大丈夫ですよ」

とはなしている。どうやら予定時間より先方の到着が遅れそうだ。私は時計に目をやった。時刻は12時55分、はは〜ん、約束は13時でそれに遅れそうだから先方が電話してきたパターンだなと推測する。

やめてくれ、自分の仕事の手が止まってしまう。どうかおもしろい展開だけにはならないでくれ。いや、そうだよ、ブログのネタは欲しいから事件は起こって欲しいけど、今日は早急につくりあげないといけない書類があるから今日はご勘弁を、と思っていると期待を裏切る発言があった

「じゃあ、つかれたらお電話いただけますか、お迎えにあがりますので」

やめてくれといったのに。私のキーボードを打つ手は完全にとまり、置いてある万年筆に手を伸ばしメモをとった『つかれたら電話』

メールの文章の書き方に関する本を数冊だしている友達でライターのあゆみちゃんに電話しようと思った。メッセンジャーで聞こうと思った「ねえねえ、あゆみちゃん。ついたら電話くれるの敬語って、つかれたらお電話いただけますかであってる?」って。でも辞めておいた。そんなしょうもないことで彼女の手を止めるわけにはいかない。

自分で考えることにした。マダムは電話でそう告げた後、彼女が到着するのをまつことにしたようだ。5分後に彼女を迎える準備をしていたのだろう、まだ15分あるとなったマダムは背もたれに深くもたれて足を組み直しスマホの画面をスクロールした。

俺は考えた。つかれたらって表現でも敬語っぽいし、謙譲語っぽいのでまあ意味は通じるだろうが、同音異義語で『疲れた』というのがある。もしかして今回遅れてくることが決定したマダムのお客さんが、着かれたら電話というのを、疲れたら電話と勘違いしてたらどうなるだろうかと。そこから俺の妄想が始まった。

13時ちょうどにマダムの電話がなる。スマホをスクロールするのに疲れてスマホをテーブルの上において、まだ10分くらいかかるだろうからと、背もたれに背中を付ける量を先ほどより増やして大いにリラックスしていたマダムはびっくりして背もたれから背中をはがし、腹直筋を駆使して起こした上背を股関節あたりでしっかりと曲げ前屈し、右手を伸ばしてスマホを手にした。

画面を確認したら先ほどのお客さん、遅れると言ってたのにどうしたのかなと慌てて電話にでる。お客さんの名前を仮に吉田さんとする

「どうも、吉田さん、どうしました?」

まあ予定より早いのでこういう質問になるだろうなと思い俺は聞いていた。すると吉田さんの声を聞いて更に驚いたマダムは、お尻を椅子から剥がすように立ち上がりながら

「え、もうつかれましたか?」

と迎えの準備にはいった。吉田さんの声を想像するにおそらくこういったのだろう「マダムさん、吉田ですが、つかれました」吉田さんは、5分前に話した内容をしっかり踏襲して、疲れたから電話をしたのだ。

「はい、遅れては駄目だと思い、駅からダッシュしたのですが、普段あまり運動しない私なので、疲れてしまいました。つかれたら電話してくれとマダムがおっしゃられたので、お言葉に甘えて電話しました」

それを聞いて、吉田さんって、着いたと言わず、着かれたって自分にも敬語を使うのか変わった人だなと思ったマダムは、そんなことより着いているのなら、待たせるわけにはいかないと入口に向かって1歩踏みだした。ここは会員制のスペースなので入口で会員を待たないと吉田さんははいれない、だから迎えに行くのだ。二歩目を踏み出す時にマダムは

「はやかったですね、着いたのね、すぐ迎えに行きますね」

と言った。すると吉田さんは、何で?って感じで答えた

「迎え?ってここまでですか?いいですいいです、そこまで行きますから」
「いえいえ、駄目です駄目です、中に入れません、会員しかはいれませんから行きます」
「はい、それはわかってます。入口に着いたらまた電話しますから今しばらく待っててください。あと、疲れたら電話してくれってマダムさんはおっしゃってくださいましたけど、着くまでにまだ何回か疲れると思います。そのたびに電話してたらなかなか着きませんので、もう電話はしません。着いたら電話しますね」
「え?」

マダムは吉田さんは頭がおかしいと思ったに違いない。つくまでにつかれるってなんなのだ。まだつかれてないのか、いやつかれているのか。思わず聞いた

「吉田さん、今どこにいるの?」
「はい、そちらまで10分ほどのところです」
「あ、そうなのね、まだつかれてないのね」
「いえいえ、つかれています、だから電話したのです」
「でも今着いてないって」
「はい、着いてません」

なにかアンジャッシュのコントのようになってきたので妄想はこのへんでストップするが、日本語には同音異義語がいっぱいあるので注意しないとこういことが起こる可能性がある、さすがにこの妄想みたいなのは起こらないだろうが、あるクライアントで公園で行なうイベントの話と、どこかで講演をやってもいいなあって話と、そのイベントに後援がつくとかつかんとか言う話をしていた時に同僚が「みさおさんこうえんの」件なんだけどねと話し始めた。

それは結局後援の話だったのだが、おれはずっと公園の話として聞いてたから、話が噛み合わなかった。

だから、へんな敬語はやめよう。へんな敬語を使ってなければこんな問題は起きない。いや問題は起きてないなあ妄想だから。俺の手を止めることにはならなかったのだから辞めて欲しいのだ。

着かれたらなどと言わずに、到着したらとか、着いたらとかにすればいい。着いたらは、もしかしたら突いたらと取られる可能性もあるので、やはり、入口に着いたらとか、到着されましたらとかのほうがいいってことになる。

つかれました

で一本コントでも作ろうか。同音異義語っておもしろい。