サーファーは台風が日本に向かって進んでくるのを歓迎しているわけでは決してない。

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太平洋沖に低気圧が発生するとサーファーは興奮する。そのひとつに台風も含まれるので、しばしば不謹慎ではないかとなる。サーファーはより強い発達した低気圧を待っているので、その最たるものが台風であるということを考えると、サーファーは台風を望んでいるということになる。

これは半分そうで、半分はそうでない。一般的に低気圧が北緯20度の線を超えてくると、低気圧によっておこった波のうねりが太平洋岸に時間をかけて届くと言われている。なのでサーファーはこの線を超えるか超えないかを見ている。

台風がきたらよろこんでその波にのりにいくサーファーというイメージがあるからか、台風が日本に近づけば近づくほど大騒ぎしてよろこんでいるように思うだろうが、そんなことはない。あまり近すぎると、サーフィンに適さない波になる。

その要因は風だ。

実はサーファーが好んでいるのは台風がつくったうねりだけだ。だから最高なのは北緯20度をすこし超えたあたりで、停滞してくれるのが一番うれしい。その台風は、日本にもフィリピンにも韓国にも被害をもたらすことはない。

停滞してそこで吹く猛烈な風によって、うねりができる。そして、そのうねりだけが、何日かかけて太平洋岸に届くのだ。

サーファーも台風がちかづくことを望んでいないのだ。まあうねりによる被害もあるじゃんって、なると、すみませんというしかないのだが、日本の海は防波堤がしっかりあるので、遠方で発生したうねりで甚大な被害になることは考えられないので、そのあたりはご理解いただきたい。
2013-6
ちなみに地震による津波と台風による波は、まったく性質の違うものということをお話しておく。地震の津波にはのれない。大きすぎるとかいうことではない。サーフィンに適さないのだ。津波は、いっぱいにお湯を張ったバスタブに、人が入った時、お湯があふれるでしょ、あのあふれるお湯が津波のイメージだ。波というより、海から水があふれてきたという感じなのだ。だからのることができない。

サーファーは風が嫌いと言ったが、風がないと波はたたない。波がないときは、風よ吹け、そして波をおこせ〜ってなるのだが、いったんたったら、風よやめ〜となる。なぜなら、風は、波のシェイプを壊すからだ。

すべての風が敵というわけではない。波に対して垂直に岸側から沖に向かって吹く波は、波の形を、サーフィンに最適に整えてくれるから、いい。だけど、条件が揃わないと、少しでも向きがずれると、波がわるくなる。それだったら、無風がいいよねってことになる。

だから、サーファーは朝が早い。あさは、あさなぎといって、風が弱いことが多いので、それを狙っているのだ。同じ意味で夕方も風が止む。ゆうなぎといって、風が止むので、狙い目だ。風は温度が高い方から低い方に向かって流れる。

水のほうが砂にくらべて温度があがりやすいので、太陽が昇ったら、先に海水の表面温度があがる。陸地はそのスピードが遅いので、温度差がでる。温度差がでるとそこに風が発生するという仕組みだ。

いい波になるための条件はこれだけではない。これに潮の満ち引き、海底の砂の動き、うねりの向き、風の強さと向き、波の大きさなど、その条件が合わないと、いい波がおこらない。

これだけの条件が、全部完璧に揃うなんてことは、そんなにないということは容易に想像できるだろう。だから、サーファーは、いい波に出会ったら興奮するのだ。自然のチカラを感じるのだ。自然の前では人間がいかに無力かを知るのだ。

科学が発達し都会に生きていると、ややもすると、人間は神に近づき、ほとんどの事をコントロールできると思ってしまうかもしれない。ところが、そんなことは、とんでもないと海に出た瞬間に嫌というほどわからせれる。

それは海だけではない。山でも森でも川でも、すこし回りに目をやり、一歩踏み込んでやれば、それをかれらは教えてくれる。おたがい宇宙に住んでいるんだ、なかよく共存していこうよと。

サーファーのチャラチャラしたイメージはあいかわらず根強いが、自然との対話という面においては、すこしだけ、見なおしていただければ、うれしいなと思う。