はなし泥棒

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頼むからその話とらないでください。

世の中には人のはなしを取る人が少なからずいる。人の物を取るのは良くない。目の前にある、人が買ったダイエットコーラをおいしそうだからと、取ったらそれはどろぼうだ。窃盗で警察に捕まる。

人の物を取るのはそれほどいけない事だ。ところが、人の話をとっても逮捕されたと言うのは聞いた事がない。完全に野放し状態だ。法律がないので取り締まれない。ここで、言う人の話をとるというのは、誰かの話を聞いて、その話があまりによかったので、本人に無断で自分の話のように、ほかで話すという意味のものではない。これは著作権法に触れるので、場合によっては逮捕も可能。

わたしここで言う話をとる、というのは、誰かが話し始めたその話を、その人の許可なくそのひとが最後まで話していないのに、途中で話を奪いフィニッシュまで持って行く好意の事だ。これを話を取ると言っている。

これ、やる人が結構いる。私の周りにも知っている限り3人いる。その人たちはいつも人の話をとる。とんなやあと切れそうになる。これは、今回は取ったけど次回はとらないという類のものではないような気がする。取る人はいつもとるし、取らない人は絶対にとらない。そんな感じがする。

ではどういったものが話を取るというものに抵触するのか。例を出して説明する。

例えば、3人で話をしているとする。その中にひとりどろぼうがいる。もう一人は私。そして共通の後輩。どろぼうと私は知り合い。

みんなで話をしていた。いろいろ話が出た後、後輩が私に質問をした。「操さん、あれってどういうことになってるんですか」私が得意とする分野で、彼もそこに興味があったので聞いて来た。どうしても、聞きたかったらしく、ひととおり皆の話が出尽くすのをまっていたようだ。一息ついたタイミングで聞いて来た。

わたしは聞いて来た質問を速攻で頭のなかで分解した。彼は何を聞きたがっているのか、彼の表面上に出ている質問と彼が聞きたい事があっているかも、ひもといた。えてして、聞きたい事が表明上に出ない事が多い。彼が聞きたい事をしっかり把握する必要がある。もしそれが見えないなら、相手に確認する事もひつようである。お前の聞きたい事ってこれこれ、こういうことか?と。今回はその必要がなかった。彼の聞きたい事は明確になった。

そうなると次にする事は話の組たて。彼の最終的に聞きたい事に対して、話の流れを頭の中でつくる。結論が決まっているので、その結論を先に言ってから説明にはいるのか、それとも、解りやすいように説明してから結論に持って行くのか。頭の中でどの方法が、今回の質問を回答するのに、適当かを判断する。落とすのかどうかも考える。話をおもしろくするのに、落ちをいれるかどうかは必ず検討する。

検討の結果。落ちも入れる事を決定した。こんかいの落ちは笑いではない。へ〜、なるほどねえ、そういう事だったんですか、という落ちだ。その落ちの方が、今回の答えにはあっている。印象に残るはなしにするには、へ〜で落とす方が良い感じになる。

後輩の質問が出てから、ここまで、おそらく3秒くらいでやっている。5秒はかかっていないはず。つくづく脳って凄いなあと思う。さあ、構成は終わった。あとは、ストーリーに沿って話すだけだ。

「まずな、あれって2種類存在すんねん。」と切り出した。導入がとても大事だ。お前は1種類と思ってるけど、2種類あるという事をまず知っておかないと、間違ったかいしゃくになるよ、ということを絶対に一番最初に言っておかないと駄目だった。「その種類はな、」まで話したときに左横から声がした。「外資系と非外資やねん。ねえ、操さん」どろぼうだ。今回は介入が速かった。ねえ、操さんと言って俺を見る顔はきらきらしていた。鼻の穴が膨らんでいた。

今回は最速やなあ、しかもこの分野はおれが10年以上関わってきたかなり得意な分野、ここに入ってくるとは、もはや何でもありやなあ。この日、この話題に関して私が発したのは2ことだけだった。そのあと、間髪を入れず泥棒は話し始めた。彼はまだはなしている。後輩も聞いている。短期で即介入して来ただけあって、泥棒もこの分野が得意なようだ、かなりの知識と正確さで話している。

でも、違う。話が違うというのではない。おまえが違うのである。ここはプロの私にまかせるべきだった。今回の話に限っては間違いなく俺が適任だ。このままフィニッシュまで言っても後輩は満足いく回答を得られない。泥棒も後輩の先輩なのではいはいと話を聞いている。しかも、後輩の質問に対してそのどろぼうはかなりええ線で答えている。さすがに速攻奪っただけである。

でも実はそれでは駄目なのだ。後輩の聞きたかったのはそこではないのだ。そんなもん聞いたっておそらく腑に落ちない。質問には答えている間違いなく答えている。でも今回後輩が聞きたかったことは顕在化していない。聞きたいことは潜在かしていたのだ。それはもちろん、質問をした後輩も気づいていない。後輩が聞きたいのはそこではないのだ。

「よく知っておられますね。解りました。納得しました。ありがとうございました。」と後輩はどろぼうにお礼を言っている。泥棒は得意げな顔で俺をみている。俺は、しらけて横を見ている。後輩にとっても別に俺から答えを聞きたかったのではなく、質問の答が得られれば良かったので、私からの必要はないのである。

「行こっか」と私が声をだし、店を後にした。残念ながら後輩はあの状況における、最高の答えを得ることが出来なかった。本当に後輩のことを思えば、泥棒を制してでも、俺が話すべきだったのだろうが、なんか腰をおられた感が出たので、なえた。まあ、後輩には機会があって、まだそのことに興味をもっていたら話すことにする。

今年のハローウィンの仮装パーティーはミニスカポリスで登場しよう。そして、泥棒の前に立つ。「お、操さん、今年はミニスカポリスですか。なにゆえに。」

おまえを逮捕するために。

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