歩行者自転車専用道路を散歩中の親子は、俺を不審者だと断定した。

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バスト・ウエスト・ヒップがアバウト100・100・100になったのを機にダイエットを始めた。まずはゆるやかに運動をスタートさせようと近所にある歩行者自転車専用道路を時速6キロであるきはじめた。

起点に到着し、カシオのGショックのストップウォッチ機能を利用し時間を測るために、右斜め上のボタンを押す。15分たったら折り返す。初日の今日の目標は3キロ。無理はしてはいけない。

フォームが大切。ただ、だらだらと歩いているのもなんなので大きく手を振って歩く。200メートル進んだところで、前方に犬を散歩させている親子が見える。2メートルほどしかない道幅。向こうから歩いてくる人がいなければ、普通はまん中を歩いている。

100メートルに近づいた地点で、向こうのお父さんは、俺を認識したように思えた。それを確認した俺は右側に寄った。俺が右に寄ったのを確認したお父さんは、お父さんの1メートル前を補助輪付きの自転車で進む5歳位のお嬢さんに、右に寄りなさいとうながす。

お嬢さんは前を見て俺の姿を確認する。なぜお父さんが右に寄れといったのかが解ったかのように彼女は右側によった。お父さんは長く伸ばして持っていたリードを手元にたぐりよせ、一緒に散歩してたミニチュアダックスをふたりに近づけた。俺に迷惑をかけてはいけないという配慮からだろう。

さあ、どうする。

あいさつをしようかしまいか。昔なら全然してた。迷うことなくすれ違う人にはあいさつをした。散歩仲間だし、ジョギング仲間だ。ところが、最近はちょっと迷う。俺なんかにあいさつされたら、迷惑なんじゃないのかと。

職質してからだろうか、自分の容姿にコンプレックスがあるのだろうか。それなら、もっと爽やかにしたらいいじゃないかと思うだろうが、なんか爽やかなのが苦手だ。ブサイクが爽やかにするとなんか、ただのブサイクになるようなきがするのだ。ナルシストなのかも知れない。きたないと言われるほうが、ブサイクと言われるよりショックがすくないと思っているのかもしれない。
プロフィール写真ustream
どうしてもちょっと、あやしい感じを残してしまうのだ。怪しい感じだと、あいさつが帰ってくる率はものすごくさがる。普通に平気に無視される。それから、全員にあいさつするのを控えてきた。とくに若い娘さんとは絶対に目を合わせないようにしている。合わすと相手がかわいそうな気がして。

そんなこともあり、全員にはしなくなった。で、今回の親子連れ、どうしたものか考えた。お父さんは30大半ば。もし彼ひとりなら、まちがいなくあいさつをした。かりに、おれが不審者でも問題ないだろう。

ところが、娘さんと一緒だ。これはどうしたものかと考えていた。そうこうしているうちに残り10メートルになった。これは決断をしなければ。

俺は決めた。ちょっと目を合わせよう。目を合わせて目があったらあいさつしよう。目が合わなければやめようと。

残り8メートルで、俺は彼の目を見た。彼はこっちみないでという風に、まっすぐ前を微動だにせず見据えていた。決めた。あいさつやめよう。そうだよな、ちょっとこわいよな、娘さんもいるし。

俺も目線を前にすえ、腕を振って進んだ。いよいよ我々は交錯する。3人と1匹のあいだに緊張が走った。そしてすれちがった。おそらくお父さんはホッとしているだろうなと、思った瞬間、娘さんが口を開いた

「おとうさん、こんにちは、言わなくていいの」

その言葉が、俺を奈落の底に突き落とした。初日だけど、もう散歩中止しようかと思うほどショックだった。

そう、おとうさんは、娘に、いいかむすめよ。散歩している時、おじさんとかおばさんとかおにいさんとかおねえさんとすれ違ったら、こんにちはってあいさつするんだよと、言ってるのだ。だから、娘は聞いたのだ。おとうさん、あのおじさんには、あいさつしなくていいの?と。

そのあと一瞬の間があって、再び娘の声が、先程よりもちろん小さな声で

「ふーん、そうなん?なんで?」

お父さんの声は聞こえてこない。すれ違ってすぐ娘が言った言葉が、俺に聞こえてるかも知れないとおもったからだろう。娘には小声で耳打ちしたのだろう。あのおじさんにはしなくていいよとかなんとか。

それでいつもあいさつしなさいと言ってるのに、お父さん変なこというなあとなって、なんで?と聞いたのだろうというのが俺の予想だ。

近所の人ともあいさつする事が減りつつある昨今。今どき珍しい、あいさつ推進派だったのだ、このお父さんは。娘さんにいつも言い聞かせるくらいの。

そのお父さんから、目をそらされ、あいさつをしなくていい人と認定されたのだ。このショックは、刑事から職質を受けた時と同じくらいの衝撃だ。

本気で、ブサイクをうけいれる時期がきたのかもしれない。そのうち本当に、なにか大変なことになるかもしれない。

自慢の天然パーマにハサミをいれるときがきたのかもしれない。爽やかにはならないが、不審者からは抜けだすかも知れない。シルバーウィークまっただ中、考えさせられる出来事だった。